夜の塔に雷鳴が落ちる。ひとつの閃光が、長い静寂を貫き、城のてっぺんに据えられていた冠をはじき飛ばした。遙かな時のなかで、石を積み上げては守りとした人間の思いが、この一撃でばらばらとほどける。塔は、どの町にもある。かつては灯台、時を告げる鐘楼、あるいは牢獄としても立ち、上に登れば地上のすべてを見下ろす。けれど高みからの眺めは、嵐の夜には世界がどこまでも深い闇に沈みこむものだ。神話のなかでは、神々がそうした塔から世界を見守ることもあった。北の伝承には、終わりなき夜を見つめる瞳のような塔があり、すべてが崩れたあとに残る静けさを語り継いだ。
冠が落ち、石が砕ける音ののちに訪れるのは、沈黙の暗がり。そこには、燃え残りの煤が舞い、かつて壁にかけてあった古い墨染めの布が、湿った風にゆれる。人はその中で、隠していた悲しみや怒り、いつしか見なくなった本心と向き合うことになる。古い世界が壊れるとき、闇はすべてを包み込み、始まりの場所となる。新月の夜、畑を歩けば、土の中に眠っていた種や虫たちが、音もなく息づいている。遠い大陸の都市では、夜の市に集う職人たちが、墨のような色の布を広げて新しい模様を描いている。漆を塗った器が、光を吸い込んでひそやかに輝く。山岳地帯の古い村では、冬の夜に職人が囲炉裏のそばで煤にまみれた手を洗い、朝まで語り合いながら、失われたものを思い出す。
雨の降る晩、傘の下で道に落ちた枝や実を拾い集める。机に向かい、墨で短い手紙を書き、言葉にできなかった想いを封に託す。古い写真の箱を開き、曇った空の下で撮られた一枚をそっと手に取る。厚い雲に覆われた窓を拭き、外の景色がぼんやりと浮かびあがるのを待つ。そんな静かな動作のすべてが、内側にひそむ強さや、崩れたあとの自由を呼び覚ます。
今日のラッキーカラーは、ブラックです。
Lucky Color: Black — #000000新しい始まりは、すべてを包む闇から始まります。