地上の輪郭が霞む夜明け前、愚者は杖一本で旅路に立つ。彼の足元には、まだ名前も知らぬ土地が広がっている。古い神々の物語では、世界創世の混沌のなか、無知ゆえに恐れを知らず、新しい道を踏みしめた若者がいたという。彼の衣は、荒野の風雪と太陽の光にさらされ、やがて深い葡萄酒のような色に染まった。彼の行く手には、葡萄畑を潤しつづけた大河、その水面に浮かぶ古びた小舟がある。ある朝、舟を漕ぐ漁師たちは、遥か東から流れ着いた不思議な実を見つける。小さく、しっとりとした皮の中に、土のぬくもりを閉じ込めたそれは、やがて土地の料理人たちによって、温かな煮込みに姿を変えた。
遥かな地中海の谷間では、この実のために鍬を振るう者がいる。遠いシルクロードの商人は、その土地の布商人から分厚い毛織物を買い付け、それを西の都市に運ぶ。古都の修道士たちは、この色を衣に選び、厳かな祈りを捧げる夜、ランプの灯りのもとで織りなす糸を指先に感じている。星と星のあいだに、ささやかな希望とともに流れてきた色。砂嵐の去った午後、雲間から差し込むひとすじの光が、葡萄の房や陶器の壺、羊飼いのマントにひそやかに宿る。
突風に吹かれそうな急な崖の上、愚者はその色をまといながらも、下を見ずに跳ぼうとする。誰もが通るはずのない細い道、すぐ先に見えるのは深い谷。その足取りは軽いものの、しっかりとした支えを持たぬまま歩み出す。そんなとき、歴史の中で数えきれぬほど繰り返された選択の重みが、静かに呼びかける。見えない何かを確かめることの大切さを忘れたとき、旅路は思わぬ形で道をそれていく。
今日、もし手の中にやわらかな食材があれば、それをゆっくり切り分けて煮込んでみる。古い陶器のカップで温かな飲みものを味わう。机の上に毛織物の布を置き、ちいさなものを包んでみる。旅人の手のように、重みを感じながら一歩進めてみる。知らない土地の話を聞き、地図をひらいて想像する。
今日のラッキーカラーは、マルーンです。
Lucky Color: Maroon — #800000目の前の地面を一度確かめてから、また次の一歩を踏み出す。