Colors for the Fool

今日の色を、牌より引く

牌を引く / 尼院長

尼院長の幽白。中央の鏡に色が映る絵

幽白

正位 · #F8F8FF

二つの柱が閾に立ち、沈黙の重さにて涼しく候。そのあひだに帳は、向こうに横たはるものを隠し、石榴の模様を付けられ、神話の如く古く候。尼院長の足元にて、動かぬ水は、息の静けさと、隠されたるものの約とを捉へ候。ここにて急がるるものは御座なく、すべては明かしの縁に残り候。手は閉ぢたる巻物の上に休み、秘密は固く押され、待ち候。座は石にて、触れれば涼しく、遠く去りし手の彫りたるものにて、最後の黄昏より空気のほとんど動かぬ社に据ゑられ候。

帳の向こうにて、物語は深まり候。北の国にて、地の涼しく、日が雲の後ろの思ひに過ぎぬ朝、薄き霧は集まり候。ゆっくりと動き、野と垣との上を滑り、世を柔らかき静けさにて包み候。古き僧院の傍らを過ぐる旅人は、その塔の淡く黙して立つを見、輪郭は低く巻く霧にてやはらげられ候。世は消されず、より微妙にせられ、物の細部は、わずかに手の届かぬところへ退き候。

山の峠にて、僧はかつて黎明の前に、祈りへ歩み候き。幾十年にて糸の透けたる衣は、涼しき空気に乾かさるる古き麻の見を帯び、織られては織り直され、各の糸は耐心の証に候き。布は滑らかにて、羊皮よりわずかに軽く、各の動きにて静かに折れ候き。影の如く動き、目的ありて乱されず、米粉の籠を厨へ運び、籠の置かるるとき、粉は淡き雲となりて立ち上り候き。

厨にて、麺麭は篩はれ、捏ねられ候。陶の鉢は涼しく不透明にて、割られたる蒜の山の傍らに坐し、皮は息の如く薄く、縁にて巻かれ去り候。厨人は茶のために水を注ぎ、湯気は立ち、空気の中へ消え、短く重さなき帳と成り候。遠き隅にて、窓は果樹園を明かし候。深き冬、李の木は薄き霜の衣を着、各の枝は縁取られ、壁をわずかに撫でる最初の光の中に輝き候。窓の縁にて、折りたる文は休み、紙は丁寧なる手にて撫でられ、文は今は封ぜられ候。

秘密は去りしには御座なく、ただ休み候。尼院長は、鷺が社の池の傍ら、朝の霞の中を歩むを見、その羽は世の騒音に乱されず候。閾の言葉を知り候。待つ者の耐心、なほ語られぬ物の耐心に候。帳は禁ぜず、静けさを誘ひ、巻物の開かるる前にもう一刻を求め候。静けさは、答への定まる場所にて、雷には御座なく、露として定まり候。

今日、ある者は黎明の前に起き、窓の傍らに坐し、朝の最初の音を聴くことも候。別の者は茶を一瓶浸し、湯気の消え、また戻るを見ることも候。柔らかき布にて、人は古き陶の鉢の面を磨き、あるいは時を取りて粉を篩ひ、各の粒が自らの遅きやうにて落ちるに任せることも候。各の行ひは、なほ隠れしものと、知の縁にただ漂ふものとを敬ふ道に御座候。

今日の色は幽白に御座候。
Lucky Color: GhostWhite — #F8F8FF言葉を持たぬ問ひには、静けき答へも御座候。

尼院長へ戻る