尼院長
II
正位
二本の柱のあひだに、坐る人が御座候。膝の上の巻物は、まだ半分のみ開き候。尼院長は、知りたることを急いで渡さざる牌に御座候。
表に出づる知の奥に、もう一冊の本が御座候。夢、潮、夜、人に説明し切れぬ違和。それらは未熟な考へには御座なく候。まだ言葉の順を持たざる知に御座候。
今日のこの牌は、答へを急がず、柱のあひだに坐りて次の一行を待つことを象り候。
逆位
巻物は閉じたるままか、開きすぎて中身が散り候。沈黙は秘密の抱え込みと成り、直感は根拠なき断定と成り候。
尼院長が逆位となれば、内の声と外の声とが入れ替はり候。聞くべきものを聞かず、話してはならぬものを話し候。柱のあひだの席を、誰かに譲り候。
今日のこの牌は、胸の奥の違和を結論にせざることを象り候。まだ巻物のまま、もう一晩のみ置くための一枚に御座候。