見えない足元に、飛び出すつま先が触れる。遠くを見ているうちに、背後に流れる風が名前もない穴をさらっていく。デルフォイの巫女は、煙る神託の間で立ち止まり、地下から立ち昇る気配に身を委ねた。先の景色が霞むとき、人の心は確かめることを忘れ、ただ未知の方へと導かれる。
古い絵巻の端、夜の帳が町を包むころ、路地裏の職人は煤の染み付いた手で灯りを磨く。古い蔵の帳に、墨の書が眠る。かつて海を渡った船乗りが見たものは、嵐の夜に船底を打つ潮、その深く、光の届かぬ場所だった。サモトラケの秘密の祭儀で、目隠しされた者は闇の中で歩を進めた。モンゴルの大地では、乾いた草原に夜が降りると、遊牧民の家々には羊毛の帳が垂れる。そこにうずくまる子どもたちは、遠く狼の声を聴きながら、指先に残る炭の感触を確かめる。
新月の晩、星を曖昧にしか見えないとき、旅人は灯りを持たず歩き出す。足元は見えず、目の前の道がどこまで続くのかも知らないまま。バビロンの遺跡、崩れた石の間に隠された壺には、煤けた小さな宝物が詰まっていた。江戸の町、染物屋が夜更けに水を打つ。無防備な心のまま、何も背負わず走り出す者の背を、雨雲が覆い隠す。
あるときは、魔女が夜の森で薬草を摘む。光を拒む苔の根元に、ひっそり薬壺が置かれる。あるときは、修道士が静寂の回廊で、煤の筆を手に祈りの言葉を書く。あるときは、小さな子が祭りの帰り道、土間に落ちた墨玉を拾い集める。
どこか遠いところで、嵐のあとの浜辺に打ち上げられた流木が、波の名残を纏いながら眠っている。暗闇は何も語らず、ただすべてを包みこむ。まだ見ぬ場所へと進みたい時、確認もせず飛び出したその先に、足元の世界が広がる。
今日は、煤で指をなぞってみる。墨の筆で名前を書く。夜に目を凝らす。古い帳の中で静かに座る。一つひとつが、まだ確かめていない場所への扉になる。
今日のラッキーカラーは、ブラックです。
Lucky Color: Black — #000000夜が深まるほど、無意識の声が聞こえてくる。静けさの中で、足音は確かになる。
ブラック
THE FOOL · Black
逆位置 · #000000
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