旅のはじまりを告げる若き放浪者。足元の道を見ずに、ただ遠くの光に心奪われる。大地に触れぬまま、浮かぶ雲を追いかけ、風の声を頼りに一歩を踏み出す姿。その心には、無垢さと無謀さが入り混じり、地図も持たずに見知らぬ世界へ身を投じる。ギリシャ神話のナルキッソスは、水面に映る己の姿に恋い焦がれ、周囲の現実を見失っていった。道を選ぶとき、時に人は確認を省き、思い込みのまま歩み出してしまう。北欧の曇った空の下、旅人が霧に包まれて進む道は、先の見えない不安と期待が同居する。イギリスの古い伝承では、朝もやの中を歩く羊飼いが、いつもの野原の境界を見失うことがあった。
ビクトリア時代のロンドン、石畳に沈む朝の煙、産業の息吹が街を包み、境界が曖昧になる。そんな時代、人々はガス灯のほのかな明かりに頼り、夜明け前の静寂の中、まだ足元が不確かなまま一日を始めた。誤った道を踏み外さないよう、手探りで扉を開ける。東洋の硝子工房では、職人が昨夜の灰をふるい落としてから、今日の作業にとりかかる。透明な器に積もる微細な粉塵を払いのけ、新しい命を吹き込む準備をする。アルプスの山間で採れる鉱石は、形を成す前の淡い輝きを宿している。古の修道士は、早朝に灰を混ぜ込んだ水で羊皮紙を清め、祈りの言葉を綴った。
近代の家庭には、朝ごとに食卓を覆うクロスがあり、昨日のパン屑や埃をそっと払って新しい一日を迎える。窓辺に置かれた陶器の器は、夜露に濡れたまま、そっと拭われるのを待つ。空気がまだ動き出す前、硝子にうっすらと曇りが残る。朝刊を手に、コーヒーカップを傾ける。静けさに包まれた部屋で、まだ誰の足跡もない床の上を、そっと歩く。世界が目覚める直前、ほのかな霞が包む瞬間、境界のあいまいな世界に身を置く静けさ。何かを始める前に、足元をそっと見つめ、微かな揺らぎを感じる。今日手に取れるのは、埃を払う柔らかな布、器の底に残るわずかな粒をすくう匙、小さな花を活ける小瓶、窓の曇りを拭う指先。どれも新しい始まりの前に、そっと仕度を整えるための道具。
今日のラッキーカラーは、ホワイトスモークです。
Lucky Color: WhiteSmoke — #F5F5F5一日の曖昧な始まりを、やさしく受け止めて。新しい風が静かに通り抜けます。