御者の頭の上に保たれたる天蓋の下にて、世界は前の道へ狭まり候。馬具の二頭の獣は構へて立ち、いづれも他と同じにはあらず、その息は暁を曇らせ候。町の石の門は前に待ち、知られたるものと開けたる道の境に候。手綱の握りは着実にて、力づくにはあらず候。双方の生き物は、引き離されては御座なく、共に導かれるときに動き候。動きは意志のみよりは来ず候。動きの中の対と結びより来候。天蓋は張られ、屈せず、確かならざる空より御者を庇ひ候。
前の道は敷かれ候。されども、かつて鍛冶場へ音を立てて到りし荷車より落ちたる石炭の欠片が散り候。町の縁のその古き炉は、打たれたる鉄と燻る熾を以て、長く煙の線を空気へ送り候き。その煤は、過ぎるにつれ戦車の車輪に塵を掛け候。その炉の香は空気に垂れ、辛抱深く深く候。獣の馬具は、古き靴の革の磨きにて輝き候。靴屋の台の残りに候。手は厚き皮を、旅する者のための長靴と革の袋に形作り候き。町の低き区にて、麺麭屋は炉より黒麦の麺麭の盆を引き、穀の炎に会ひしところ、皮は音を立て、焦げ候。
門の外に野が横たはり、鴉が歩き、頭を揺らしつつ畝より甲虫を摘み候。この鳥は墨の羽にて目鋭く、朝の風に乗つて空気を乗り候。御者の心は、古き境を印し、森の終りと長き道の始まりを告げし鴉の物語へ漂ひ候。旅の人も、星なき空の下の夜、新月の天鵞絨の闇に迷ひしことを思ひ出し候。かかる空の下にて、羅針盤と方向の鋭き感は必要にて研がれ候。灯の光は、かかる深さを切らねばならぬとき、より明るく見え候。
歴史は戦車と共に乗り候。遠き土地よりの漆の木器の商人、その箱と椀は磨かれたる仕上げにて封ぜられ、湿りに抗ひ、保ち守る様にて貴ばれ候き。帝国の川に沿ひ、艀はかつて絹に包まれたる荷を運び、火山の岸よりの黒曜にて重く候き。石は手の中に涼しく、矢尻に形作られ、あるいは鏡に磨かれ、決したる顔を自らに映し候き。城壁の麓の市にて、炭売は墨のための粉を土器に注ぎ、書記が勝利と条約を巻物に記すために交易され候。
天候は地平に集まり、嵐の約にて重く候。空気は厚くなり、御者は、雷雲の転がり入るとき農夫が外套を近くに引き、馬が瀝青の屋根の厩の庇へ導かれるを思ひ出し候。雨の来るとき、石畳を覆ひ、石のあひだに溜まり、戦車の車輪は細き飛沫を上げ候。
黄昏の静かなる部屋にて、家族は火鉢に乾きたる李の枝を燃やし、煙は巻くにつれ茶は年にて暗くなりたる薬缶に淹れられ候。冬の朝、炉は柳にて作られたる箒にて掃かれ、毛は昨年の火にて焦げ候。町の夜番は灯を揺らし、市の店の錠と板を確かめ、鍛冶の庭の古き鉄床を過ぎるにつれ足音は響き候。
今日、人は御者が革の馬具に与ふる同じ世話にて靴を磨くもよく候。鴉の羽を窓敷に置き、風のそれを持ち上げるを見るもよく候。焙りたる麦の茶を一杯淹れ、香を部屋に漂はせ候へ。あるいは墨の厚き紙に志を書き、保管のために挿むもよく候。
今日の色は黒に御座候。
Lucky Color: Black — #000000旅のために手を落ち着け、前への動きは決と最もよく対になり候。