皇帝は石の玉座の上に坐し、角ある臂は年月と季節とによりて滑らかに磨かれ、山の峠の縁の乾きて強き草の上に、判然たる影を投げ候。後ろにて、峰は番の如く立ち上り、その古き力は世界を場所に保ち候。前にて、道は石にて印され、丁寧なる線にて敷かれ、保たれし境の眼に見える記録に候。秩序は偶然には御座なく候。一つ一つの基より築かれ、しかる後、風と天候とがこれを取り戻さむとするあひだ見守られ候。
世の物語にて、ある糸が皇帝の道を印し候。古き文机の漆の表面、家の形見にて、磨かれし仕上げは幾代の跡を帯び候。ここにて地券と任命とは署され、印の音は一日の用を開き候。棚に沿ひて、栗の集まり、秋に集め焼かれしものが陶の鉢にて待ち、空気に旨き土の香を貸し候。栗は掟の如く、殻の屈するときを知る忍耐と知とをもつてのみ集められ候。近くに、冬のために取つて置かれし古き羊毛の外套は、角を揃へて折られ、織りは長き用より固く、香柏の香が糸に纏ひ候。これらの物は単なる所持には御座なく候。連続の道具にて、一つ一つは家を定める境に候。
壁の向ふにて、皇帝の遺すものは景色の中に響き候。鉄の富む土の帯は遠き丘を横切り、掘ることの世界の構造を裸にせしところにて脈の露はれ候。ある土地にて、桃花心木の皮は精密なる切りにて収穫され、線は真っ直ぐにて測られ、与へられしものを決して費やさず候。幹の繊維は、家具に形づくられ、あるいは式の杖に彫らるるとき、秩序と忍耐とを語り候。遠き東にて、柿の木の実を乾かす伝統あり、切られて盆の上に並べられ、切片は乾きて冷き空気の中にて革の如く甘く成り候。この実は、雪の峠を閉づる季節のために保たれ、誰かが備へをなせしこと、この境の内の世界の永らふることの印に候。
天候もまた自らの秩序を持ち候。ある午後、昼夜の等しき頃の近づくとき、風は山より吹き下ろし、湿りし粘土と落ちし葉の香を運び、塵を巻き、一陣の過ぎたる後すぐに定まり候。これは野にて治められざる嵐には御座なく、地の測りたる息、皇帝自らのものに合ふ調子に候。吸ひて、吐きて、戻ることに候。風の後、空気はより確かなる心地にて、見えざる境の再び引かれ、すべてがその場所に在るかの如くに候。
今日、人はこの境を敬ひ候。仕事の場を整へて道具の一つ一つに正しき場所を与へ、机を次の仕事のために備へたるままに残すことにて候。栗あるいは今一つの収穫を調へ、焼いて親しき者とともに分かつことは、集めし忍耐の行ひに候。寒き夕に、重き外套を心を用ひて広げて折ること、あるいは縫ひ目を繕ふことは、回復せられし秩序の小さき行ひに候。最後に、文を書きてこれを封じ、見出さるるところに置くことは、秩序と連続とが手を取りて歩む覚えに候。
今日の色は臙脂に御座候。
Lucky Color: Maroon — #800000今日貴殿の世話する境は、明日歩む道を形づくり候。