古き神殿の蝋燭の静けさの中にて、教皇は厳なる伝への人に候。式は丁寧なる手にて展開し候。香は立ち上り、古き言葉は語られ、仕草の順序は意味より記憶によりて渡され候。正位にて、教皇は今日を昨日へ結ぶ糸を持ち、見えざる世界へ見える世界を織り候。されど今、牌の内にて逆位に坐し、教皇は手の空しきを見出し、香は単なる煙、儀式はかつての力の空洞なる響に候。
大聖堂の石は、求める者と僧との幾代を見、顔は世紀の雨と時とによりて和らげられ候。足の下にて、床は荒原の高く切り出されし板にて舗かれ、海鳥の霧の中に輪を描く崖より石を切られ候き。外にて、その荒き景色の中、羊飼ひは巌のあひだの小道を滑らかに磨り、地と空との境を滲ます霧雨を通じて群れを導き候き。硬き地を割りて形づくる者の商ひは、古くして必要にて候へども、年を重ねて、新しき板の一つ一つをかつて祝福せし言葉は褪せ、鎚の音と労の調子とのみを残し候。
厨にて、石板が卓の端に待ち候。かつて麺麭と乾酪とのための表面として、あるいは白墨にて調理法と覚えとを走り書きせし仮の帳面として仕へ候き。もはや聴かざる家のための文に候き。今は用ひられず坐し、その目的は半ば覚ゆらるる曲の如く残り候。家の式、麺麭を渡すこと、食事を祝福することは、習ひに縮み、ともに在ることの味は静かに滑り出で候。
遠く、年を経し小屋の後ろの天候に削られし庭にて、屋根瓦は丁寧なる繰り返しにて重なり候。嵐を外に保てども、また一種の諦め、覆ひの別れと成り得る知をも運び候。苔はその縫ひ目に育ち、風は執拗なる雨の夜の後に緩き石板を鳴らし候。内にて、冷き竈は目的の点火を待ち、火が家族の集まりと物語の語りとの錨にてありし年を覚ゆ候。
はるかに北に山の稜ありて、霧は低く入り、真昼まで残り候。峠を越ゆる旅人は、足の下の石の音、襟と袖との下に滑る寒さによりて地の形を学び候き。古き仕方は、安全なる通過の言葉をもつて霧を迎へよと言ひ候き。されど今、習ひは大方忘れられ、足音は急がれ、眼は伏せられ、旅の意味が単なる往復と成りしかの如くに候。
伝統が暗記の如く感じられ、式がもはや心を動かさざるときにも、単純なるものへ戻ることによりて核を見出し得候。今日、ある者は厨の板に約束あるいは詩を書き、あるいは古き屋根瓦の縁に指先を走らせ、手によりて敷かれしことを覚ゆ候。朝に外へ踏み出して、雨の夜の後の湿りし空気を吸ひ、あるいは旅の中ほどに止まりて石の上の自らの足の響に聴き、道を全く自らのものと認め候。
今日の色は石鼠に御座候。
Lucky Color: SlateGray — #708090形の意味を失ふときにも、耐へるものの中に足場を見出し候。