打たれたる卓の上に、方士の道具は置かれ、半ば忘れられ半ば思ひ出され候。杖、銭、刃、杯に候。この向きにて、手はあらまほしきものへ伸び、あらざるものを生み候。方士はかつて気より水を引き候き。されど今、水注は漏れ、帽子は塵のみを放ち候。幻はもはや可能性への橋に非ず、誤ったる導きにて、己の奇術の者さへを騙す手妻に候。
旧き世にて、旅人は徒歩に非ず、堅き馬の背にて土地を渡り候き。その鞍は辛抱強き手によりて作られ、日と雨との両方を知りたる獣の皮より形づくられ候き。鞍の座は、長くなさるる旅の跡を帯び候き。乗る者の落ち着きたる皺、道具の掛かりたる擦れ、虚栄より必要によりて擦り込まれたる油の艶に候き。下にて、堅く織られたる毛布は、摩擦と汗とより馬の背を守り候き。高き平原にて、風の乾きたる草と褪せたる葉との香あるところ、荷を負ふ騾馬の列は、遠き市へ向かふ箱を運び候き。珈琲、煙草、香辛は、麻袋の中に香高く、革の中へ押し下げ、季節を通じて残る香を残し候き。
海の彼方、前哨の商人は店の壁を馬具と轡とによりて縁取り、騎乗の取引の品を並べ候き。鞍を作る者は静かに仕事台にて働き、その小刀は切り台に対して鈍き音を立て候き。気は鞣したる皮と蜜蜂の蝋との香を運び候き。黄昏に、弟子は削り屑を籠へ掃き、その手は仕事の執念に印され候き。仕上がりたる各の片に焼かれたる、師匠の紋の印を見ること候き。耐への約束にして、様式と同じくに候。
大草原にて、牧場の主の家は、この同じ世の遺物を帯び候き。踵にて滑らかに摩れたる靴は戸の傍らに立ち、その側面は露の中の多くの朝によりて和らぎ候き。納屋にて、馬具は釘より掛かり、年月の重みによりて形づくられ、仔牛の誕生と麦の集ひとへの黙せる証人に候き。農夫の手は粗く敏捷にて、針と糸とにて革の裂けを繕ひ、その調子はいかなる儀の如くも定まり候き。日の雑用と織り合はされ、これらの物は変はりの道具となり候き。されど今、逆位の牌の仕方にて、その用は交はり候。轡は帯となり、鞍の敷きは子の戯れ家のための敷きとなり候。
黄昏とともに空模様は入り、雲は決して全く到らざる雨の約束にて重く候。気は厚くなり、土の匂ひと、泥の中へ深く押されたる蹄の記憶とを運び候。揺らめく灯の光の中、煮込みの鍋は爐の上に煮え、その面は骨髄の骨と根菜との豊かなる煮汁によりて艶を帯び候。年月の攪拌によりて磨かれたる木の匙は、近くに休らひ候。厨は近く庇ひ、野の響きを集め候。糧の残るものより呼び出ださるる場にて、一つの取引の道具は、飾り無くいま一つの役をなし候。
今日、貴殿は古き靴の一足を磨き、用によりて革のしなやかになりたる線を辿ることも候。強き糸にて袋を繕ひ、裂けたるものを結ぶことも候。爐の上の鍋にて珈琲を点て、香の家を満たすに任すことも候。あるいは時を割き、愛でたる木の器具に油を差し、その輝きと記憶とを戻すことも候。各の業は方士の身振りを繰り返せども、今や型は卑しく、貴殿の手の仕事によりて正直となされたる手品に候。
今日の色は鞍茶に御座候。
Lucky Color: SaddleBrown — #8B4513定まりて動き候へば、仕事は己の術を形づくり候。