玉座の上には権威の枠の立てども、その内に坐す者は御座なく候。古き宮を囲む大きなる畝の畑は休耕にて、その古き境は今なほ砕きし煉瓦の列にて印され、図と線とにて治めし都の残りに候。門の上の旗は褪せ、今は単なる布にて、もはや紋を帯びず候。空気は鉄の乾きし味を運び、練兵の場はその形を保てども、靴は数十年これを横切らず候。この領域にて、命令の音は響と風とにて置き換へられ候。座は空しく候へども、式は続き、動きの一つ一つは今や空洞にせられ候。誰のためにも御座なく候へども、なほ行はるる見せ物に候。
砦の壁の向ふにて、塵はかつて商人と兵とを載せし道より蹴上げられ、今は風のみが荷車の輪の残しし深き溝を彫り候。ここの土は硬く、かつて壁と壺とを築くに用ひし粘土にて皮を被り、脆き破片が雑草のあひだに散り候。中庭にて、一本の石榴の木のみが残り、実は下なる石の上にて裂け、種は零れて開けたる空気の中にて乾き候。これらは秩序の残り、季節を外れて実の落ちる儀式にて、巡り飛ぶ烏のみが見候。構造は立ち、耐へ候へども、温みと目的とは他所へさ迷ひ候。
下なる厨にて、粘土の窯は冷たく候。台の上には乾きし唐辛子のあり、皺みて力あり、香料と宴との記憶にて連ねられ候。その在ることは遺物にて、かつて手が目的をもつて動き、作り、養ひしことの覚えに候。今、唐辛子は触れられずに下がり、擂鉢と擂粉木とは棚の上にあり、薄き塵の層を集めどもなほ縁は鋭く、誰も加へざる圧のために備はり候。卓を覆ふ古き布は、遠き村にて手織られ、根と葉とにて染められ、艶を失ひども丁寧に折られたるままにて、意味の褪せし後にも整頓の習ひの続き候。
外にて、午後は来る雨の味をもたらし候。季節風の雲は空しき物見の上に集まり、まだ到らざる土砂降りを約し候。すべてが待ちに候へども、備への儀式は必要より永らへ候。水の来らざるに水槽は清められ、これを満たさざる洪水のために樋は掃かれ候。空気の香は待ちの香、嵐の前に温まる粘土と石の香に候。
かかる景色にて、かつて要りしことに響く小さき行ひをなすことは可能に候。人は砕きし煉瓦の一握りを取り、庭に新しき境を印し、まだ植ゑざる種のための線を辿り候。裂けし石榴を集め、心を用ひて汁を鉢に絞り、静なる食事となし候。乾きし唐辛子は手にて碾かれ、その熱は再び目覚めて単純なる煮込みの中に候。夕に古き布を濯ぎ、風にて乾かせば、動きの一つ一つに理由ありしときの仕方を覚ゆる仕草に候。
今日の色は赤茶に御座候。
Lucky Color: IndianRed — #CD5C5C心の移りし後にも、古き型は場所を保ち候。