人の形は前へ踏み候。されどためらひの御座候。この牌にて、旅人は縁に立ち、小さき包みを肩に掛け、眼は地平に定まり、地の見ゆる前に、足はすでに上がり候。傍らの小犬は警告を吠え候。ほとんど聞かれず候。世は開かれ候。されど路は未だ示されず候。足場は定かならず候。跳躍は、はかられず候。
古き語りにて、誰かは常に夜明け前に出で立ち候。霧に縁取られたる市にて、海霧の丸石の上を転がる海岸の町にて、街は空にて、世自らが己の形を忘れたるが如く空白に候。窓硝子は朝の結露の薄き衣を着候。垣と庭の門とは、雨に属さざる残りにて光り候。足音さへも鎮まり候。旅人は、知るも知らざるも、一種の帳の中を動き候。招き、かつ曇らする帳に候。
何事も未だ決せられざる前の静けさにて、世は一と息つくが如くに候。教会の庭と古き納骨の室とは、静けさの中に生き、石は涼しく滑らかにて、名はほとんど褪せ候。古き亜麻の布は、一夜干し場に掛かり、微風に動くにつれ日の出を捉へ、屍衣あるいは半ば掲げたる旗の如く揺らぎ候。厨にて、磁器の皿は穏やかなる世話にて出され、その面は秘かに保たれたる約束の如く光り候。茸のあり候。朝食の前に集められ、傘は柔らかく、ほとんど透き通り、光の変はるやいなや、森の縁にて現れ、かつ消ゆ候。
空模様は気分に従ひ候。霜の噛まず、むしろ溜まり入り、吐息の如く軽く、庭を払ひ得ざる膜にて覆ふ朝の御座候。あらゆる縁を和らぐる空模様に候。峠にて、旅人は暗きがゆゑに非ず、細く付きまとふ霧の渦が山道を包み、道標を消すがゆゑに、路を失ふことで知られ候き。かかる伝説の御座候。羊飼ひは世を鈍らする霞に捉へられ、音は借りたるが如く、一歩ごとに推測に候。かかる空模様にては、遠き鳥の叫びさへ、記憶の如くに候。
手にて作りたる帳と祭壇の布とは、注意深き指にて織られ、聖所の静けさの中に広げられ、畳まれ候。その糸は古き物語より紡がれ候。あるものは喪のため、あるものは祝ひのため、いずれも、閾を越ゆるを要する瞬間のためのものに候。薬舗にて、塩の最初の層は乳鉢の縁に殻を結び、香草の碾かれ、浸剤の漉されたる後に残り候。その残りは細く、ほとんど見えず候。されど早き刻になされたる仕事を印し候。大陸を越え、砂漠の村にても北の野にても同じく、紙は押されて乾かされ、そこになきものより重みを借りたるが如く、空気の如くに候。
跳躍の、路の見いださるる前になさるるときには、常に危きの御座候。旅人は、墓地の門あるいは霧に罩められたる波止場にて、未だ形づくられざる何かの始まりに立ち候。なほ手は次のものへ伸び候。亜麻を熨して意を以て畳むこと、新しき皿を置きその光に気づくこと、霜の上がる前に庭へ歩み入り一夜に現れたるものに気づくこと、霧の残るうちに外へ踏み、最初の鐘、あるいは遠き角の音を聴くことに候。
今日の色は幽白に御座候。
Lucky Color: GhostWhite — #F8F8FFほとんど見えざる一歩こそ最も安全にて、わずかに到るものの穏やかなる触れを信じ候。