男は生きたる樹より片足にて吊られ、見ゆる世は向きを転じ、顔は光輪に囲まれ候。この瞬間の沈黙にて、時は先へ急がず候。むしろ滞り、一秒ごとに暁の前の沈黙のやうに引き伸ばされ候。根は葉の腐土と苔の下に隠れ、見えざる水を吸ひ候。その上にて、枝は男を空の半ばに動かず抱き候。見方は向きを転じ候。ものの常の順序は待ち、柔らかき休らひの中に止められ、静けさの意味が形を取るを待ち候。
古き物語に、性急なる目には追へざるほど緩く動く川が御座候。最も静かなる時刻に、川は長く明るき魚を運び候。小石の床にほとんど見えず、鱗は低き午後の光を受け候。商人はかつてかかる水路を辿り、荷を積みたる隊商を岸に沿ひて導き、昔鋳られし貨幣を交はし候き。幾百の手に磨かれしこれらの貨幣は、初めて鋳られしときの涼しき記憶を抱き候き。静かなる家にて糸より下げられ、一枚の貨幣は忘れぬための守と成り候き。歴史の緩く念入りなるところにて、かかる貨幣は通貨のみには御座なく、証人として働き候。
雲なく静けき夜が御座候。満月は帳の後ろの皿にて、その下の世は微かなる光を帯び候。月の眼差しの下を過ぐる旅人は、松明を要せず候。光は露に、岩と屋根に、綱に干されたる布に集まり候。沈黙の中、あらゆる表面は異なる世を映し候。こちらの世とは似て非なる、息を潜むる世に御座候。伝承は語り候。旅は月の昇りたる後にのみ始まり、確かさは揺らめきと影の不確かさへ譲り候、と。これらの時刻にて、空気はより鋭く、遠き雨の香り、あるいは窓縁に忘れ置かれし金属の道具の匂ひに満ち候。
峡湾と北方の港にて、漁る人はかつて、ある天候を見守り候き。海が尖りたる岩のあひだに動かず横たはるときにて候。舟は休み、舳先は開きし海へ向き、風の戻る瞬間を待ち候き。この休らひにて、網は繕はれ、物語は語られ、小刀は研がれ候。これらの静かなる行ひは、牌の与ふる遅き時に属し候。港の沈黙は、始まりにも終わりにも御座なく、吊されたる息に御座候。
内にて、厨の匙は卓の上に休み、年月の掻き混ぜにて滑らかに磨かれ候。鏡は壁に寄り、表面は蒸気にて曇り候。祭の日には、柔らかき鉱物、すなはち銀より引きたる糸が紐へ織られ、手首に巻かれ、あるいは保管のため箱へ収められ候。卑しき盆さへ、部屋より部屋へ運ばれ、その涼しき表面の上にて供へられし食事と、交はされし会話との記憶を抱き候。
この物語へ入らむと貴殿が願ふならば、窓辺に静かに坐り、遠き雨を聞き候へ。古き貨幣を見つけて貴殿の掌に平たく押し、その重みを感じ候へ。匙を貴殿の枕辺に残し、小さき慰めの思ひ出となし候へ。あるいは黄昏に歩き、屋根と石が最後の光を集むるやうを見、静けさが世の向きを入れ替ふるに気づき候へ。
今日の色は銀に御座候。
Lucky Color: Silver — #C0C0C0それぞれの休らひは静かなる意味を抱き、正しき見方は沈黙の中に待ち候。