教皇は飾りの椅子に坐し、手を祝福に上げ、書は前に開かれ、柱は玉座を枠取り候。景色は伝統のもの、習ひと式とにて保たるる秩序のものに候へども、牌の転ずるとき、世紀の重みは瞬き候。厳なる唱は空しき身廊に響き候。香は古き鉄の香炉にて燻り、煙は巻いて穹窿の天井へ尾を引けども、儀式の後ろの意味はさ迷ひ出で、敷石の上の足音の空洞なる音と、僧院の屋根の上の雨の打つのみを残し候。教皇の衣はかつて印にて候き。今は長き日の後に釘に掛りし働き人の外套の如く周りに垂れ候。
外の世界にて、町は低き雲にて重き空の下に目覚め、石板の屋根の上に圧し、空気を寒く静にする類に候。路地に沿ひて、玉石は昨夜の雨にて輝き、泥の水は窪みに集まり、足音と車輪との記憶を運び候。石工の手は塵にて染み、今一つの風に削られし楣を形づくるあひだ、鑿は朝を通じて響き候。その向ふの畑にて、子羊は乾き石の垣の下に身を寄せ、その表面は粗く触れれば涼しく、常なるものと聖なるものとの境を図し候。古き羊飼ひの外套は、耐へのために織られ、肩に投げられ、日々の用より薄く成りし肘にて繕はれ候。
厨の炉は今や熾よりほとんど多からず候へども、ある者は鍋を掻き、鉄瓶の表面は最も薄き輝きを捉へ候。料理人の前掛は年月の煮込みと麺麭とにて撥ねられ、手の上の粉の印は真に洗ひ去られず候。日ごとに栗を粥のために碾き、音は絶えず変はらず、会衆の去りし後も久しく教会にて囁かるる祈の如くに候。倉にて、茸の瓶、古き樫の下の涼しき影より収穫せられしものが列をなしてあり、表面は年と扱ひとによりて鈍く候。
荒原の上にて、風は移り、泥炭の匂ひと冬の寒さの記憶とを運び候。羊飼ひの牧杖は石に寄り、年月の地への押しより磨かれ候。鴉は垣の柱に定まり、鳴きて雨の和らぐを待ち候。遠き鐘は鳴り、その音は霧の中に抑へられ、模様を繰り返せども意味を繰り返さず候。都にて、屋根葺は大聖堂の上の石板を繕ひ、霧雨より滑る梁の上にて均衡を取り、石のあひだに纏ふ苔を乱さぬやう心を用ひ候。
繰り返しの中に一種の慰めは候へども、逆位はより多くを求め候。形の残りて精神の去りしとき、窓の傍らに止まりて雨に聴くことが助け候。人は静なる隅に書を積み、あるいは古き茶瓶を清め、表面をしてこれを世話せしすべての者の定まりし手を映させ候。境の垣に沿ふ歩み、指先が窪みし石を辿ることは、言葉が天候とともに移りしとも、心に古き物語を思ひ出させ候。
今日の色は薄墨に御座候。
Lucky Color: DimGray — #696969意味の変はりしときにも、耐へるものの中に美は御座候。