方士の卓は、静かな乱れの中に待ち候。杖は杯のあるべきところに置かれ、銭は刃の上に休らひ、道具は影の中の黙せる演じ手に強いられたるが如く、役を変へ候。方士の袖は空にて候。されど教訓は残り候。かつて技なりしものは今や手妻となり、極みと幻との間の細き線はぼやけ候。外にて気は重く、午後の遅くは過ぎゆく嵐と、葡萄畑の日より残る温かさとの間に捉へられ候。年とともに捻れたる葡萄の蔓は丘を掴み、その実は長く蒸し暑い夕を通じて深まり厚くなるべく残され候。
神話にて、すべての変はりが輝くものに非ず候。古き葡萄の搾り機の、裂けたる壁に寄りかかる斜面にて、樽は休らひ、醗酵と秘事との香に包まれ候。樽は、晩夏の豊かさより搾られたる収穫の物語を保ち候。皮と茎とは飲物のみに従はず、肌と、唇と、記憶とを染むることに従ひ候。市の広場の商人は、桜桃の山の上に呼び、その艶ある皮は、和らぐ前に刺す酸さを約束し候。一掴みにて売り、染みたる指は銭を印し、買はれ売らるるものは、決して全く見えの如くにはあらず候。帳の後ろの世は置き換へより成り候。歩く杖は昼には摩れたる旅人を支へ、夜には秘密の集ひのために窖の戸を支え候。
家はこれらの変はりを、小さき仕方にて記憶し候。厨にて、鍋は煮え、甜菜の根を満たし、その色素を水と料理する者の手とへ放ち候。屋根裏の櫃より救はれたる古き天鵞絨の外套は、卓の覆ひとして用ひられ、今は物語へ褪せたる宴と舞との記憶にて豊かにて候。かつて最も精き搾りを保ちたる瓶は、用を改められ、火の近くに並び、油、乾きたる花、あるいは隠されたる手紙を保ち候。庭の薔薇さへ、花弁は暗く豊かにて、集められ、重き書物の間に押され、形見となり、その色は過ぎゆく月ごとに深まり候。
空模様もまた、この錬金に加はり候。川の近く、雨は速さと力とを集め、瓦の屋根を打ち、窓硝子を通じて冷気を送り候。雲の覆ひは膨らみ、約束と警告との天井となり、地は落ちたるものを飲み候。葡萄畑の土は和らぎ、気は苔と、濡れたる石と、熟れつつある実の最後との香にて厚く候。嵐は馴染みの景色を見慣れざるものとし、あらゆる影と裂け目との中の豊かさを引き出し、澄みを深さと交換し候。
貴殿は流しの上にて桜桃の種を取り、汁の溜まるを見、夏の豊かさを思ふことも候。古き瓶を新しき目的に用ひ、灯の油を満たし、光の最も要るところへ置くことも候。引き出しより天鵞絨の一枚を上げ、膝の上に伸ばし、久しく前の音楽と笑ひとを思ひ出すごとも候。あるいは雨の後、庭を歩み、落ちたる花弁を、その日の異様なる運の小さき印として集めることも候。
今日の色は濃赤に御座候。
Lucky Color: DarkRed — #8B0000世の逆位はその静かな賜を示し、かつて隠れたるものは今、明らかなるところにて変はりて待ち候。