姿は高き腰掛に坐り、空しき衣は席の上に溜まり、手の中の秤は歪みて懸り候。通風は部屋を動き、腰掛を軋ませ、重き帳を揺らせ候。剣、速き澄みのためのものは、柱に寄り用ひられず候。原告は来ず候。決のために築かれし室は、沈黙にて待ち候。外にて、法廷の広場は乾きし葉にて掃はれ候。昨季の塩膚木と、栗の殻の断片に候。ここにて、均衡は延ばされ候。混乱よりには御座なく、不在よりに候。空気は厚く、夏の嵐の前の時の如く、雲は都の上に積み、雷は仄めかされ候へども、まだ声を上げず候。その布の色は臙脂に御座候。
他の所、都の端の向ふの丘にて、土の一劃は古き柘榴の木の絡みたる根を保ち候。果実、割れ厚き皮のものは、下に散り、種は落ちし葉のあひだに輝き候。もう一つの世界にて、この種は数へられ、量られ、分たれ候き。今日、落ちし所に休み、人の見過ごすものに気づく鴉と小さき獣のために残され候。歴史の糸は、この怠られたる場面を通り候。乾かしし果実と香料が慎みたる手にて量られ、各々の取引が信じられ目撃されし交易の路の思ひ出に候。今、露店は閉ざされ、秤は用ひられず、店の者の帳は終へられず候。
幾世紀の昔、海の向ふにて、船の群は晩秋に港を離れ候き。深く残る染の布の反を運び、冬の夜の世話にて織られ候き。この織物は遠く旅し、石の拱の下の市と、埃の路傍の宿にて交易され、法の巻物を包み、長老の席を印し、時に傷つきし旅人を冷より庇ふために用ひられ候き。布は権威の印、正しき秩序の守らるるといふ信号に候き。されど正しき声の欠けたる時、布は布のみ、箱に畳まれ、鎖されたる戸の後ろに忘れられ候。商人の約束は果されず、契約は署されず候。
高地にて、天候は時に黄昏の直前に重く成り候。牧人はこれを最初に見、空の暗く成り風の昇るにつれ、群の不安に移るを見候。湿りし土と遠き雷の香を運ぶことに候。稲妻は閃き候へども、雨は控へられ懸り候。昼と夜、日と嵐のあひだの均衡は、一瞬滞るが如くに候。牧人は外套を集め羊を庇ひへ向くることを知り候。されど今夜、誰かが帰りに遅れ候。群は、開けたる荒地にて、定かならず待ち候。
静かなる家の内にて、乳鉢と擂粉木は厨の棚の上に用ひられず休み、面は香料の最後の碾きより染まり候。厨の者は離れ、おそらくもう一つの務へ呼ばれ、食事は整へられず候。卓の儀式、割らるる麺麭、注がるる量りは、今夜は起らず候。その代り、道具は意図を印し、意味を与ふる手を待つ手順に候。
望むならば、その商人の布の一筋を畳み、貴殿の作業の場の傍に置き、懸りて残るものを終へんとする約束となし候。鳥のために、柘榴の一片を貴殿の窓に残し、在りかを欠く者への仕草となし候。料理の要らぬ時にも、乳鉢にて少量の香料を碾き、果されぬ行を尊ぶのみに候。夕に立ち止まり、まだ破れぬ嵐を聞き、待ちて残されしものを数ふることを思ひ出し候。
今日の色は臙脂に御座候。
Lucky Color: Maroon — #800000忍耐は時に唯一の証人にて、不在にても意図は跡を残し候。