この牌は、崩れたる城の下の室に置かれ候。古き鉄の枷の一対が、崩れつつある台座の足元に開いて横たはり候。かつて、これらの枷は角ある偶像の前に跪く流浪の者の足首に噛み入り候き。されど今は静かに休み、その重さは記憶のみに御座候。薄き塵の層が輪を覆ひ、縁を和らげ、脅威を鈍らせ候。されどかつてこれを着たる者は、広間に留まり、破れたる窓より漂ひ入る風の中に坐り候。指先を金属の上に走らせ、腕輪の如く、その過去を気にせず候。
城の先、朝霧は地に沿ひて這ひ、丘と、領地の縁の沈黙して育ちの止みたる果樹園とを呑み候。木は剥かれ忍耐して立ち、樹皮は涼しくむらなく、幹は注意深き怠りの年月の証人に御座候。落ちたる枝と畑の石とは露に覆はれ、上の空は特徴なく、毛布の如く圧し候。羊飼の小屋は、道より離れて置かれ、湿りたる石と洗ひ出されたる茅との香を吸ひ候。その屋根は川の粘土にて継がれ、数へ切れぬ雨の記憶を保ち候。
町の広場の鐘が正午を鳴らすとき、店の人は戸板を押し開き、敷石はその足の下にきらめき候。薬舗の窓にて、磁器の擂鉢と擂粉木とが、鼠尾草と乾きたる茸との紙に包まれたる包みの隣に坐り候。道具は年月の使ひにて滑らかに摩れ、一つ一つは、午後の嵐を待ちつつ香草を粉に碾きたる者の親指の跡を帯び候。台所にて、料理をする人は汁の鍋より蓋を持ち上げ、湯気の螺旋して昇り、梁の中へ消ゆるを見候。一日の麺麭は、窓の縁に冷ますために置かれ、清き亜麻に包まれ、その畳みは注意深き手にて平らに押され候。
広場の縁にて、石工は新しき墓石の面を滑らかにし、その鑿は、物語のすでに沈黙へ退きつつある者の名を叩き出し候。踵に坐り戻り、指より石の塵を拭ひ、頭上の裸の枝を風の鳴らすに耳を澄まし候。しばし、町は静かに保ち候。蔭にも明るくも御座なく、ただ在り、飾りを要せざる明晰の中に吊られ候。
鎖は開くも、近くに残り候。貴殿は鉄の道具より塵を掃きて脇へ置くか、それを磨き、跡の一つ一つに耐へたるものを思ひ出させるかに御座候。湿りたる朝の空気へ外に出て、霧を肌に落ちつかせるか、果樹園にて落ちたる枝を集むるために跪き、手を定まりて急ぎなくするかに御座候。炉に火を灯すならば、麺麭を亜麻に包むときに用ひる同じ注意にてそれを世話し候。優しく、見守り、静けさの中へ温かさを運ぶとは何かを記憶しつつ候。
今日の色は薄鼠に御座候。
Lucky Color: LightGray — #D3D3D3静かなる明晰は人の思ふより自由にて、簡素なるものにて足り候。