Colors for the Fool

今日の色を、牌より引く

牌を引く / 隠者

隠者の薄墨。中央の鏡に色が映る絵

薄墨

逆位 · #696969

灯は消え、山の肩の上の風は鋭く候。下へ導きし古き道、隠者がかつて灯を上げて旅せし道は、漂ふ霞の下に消え候。この向きにて、隠者は下らず、他の声の響きを求めず候。岩の上に留まり、手の中の杖は年にて荒く、風雨に晒されたる外套の襞は冷気に逆らひて近く引かれ候。世は包まれ、足の下の石は沈黙にて照らされず候。所は夜にも全き昼にもあらず、雲が日を呑みし後の沈黙、最も小さき音さへ失はるるときに候。その曇りは薄墨に御座候。

何処か下にて、古き粘板の屋根は霧の中に蹲り候。瓦は鯉の鱗のごとく層を成し、降る各の雨を鎮め候。煙突はそれらの上に上がり、用ひられず涼しく、口は空へ閉じられ候。遠く、冬の橇の跡は硬き地を刻み、何処へも行かぬ線を記し、眺めの縁にて褪せ候。隠者の山は今や終はりなく見え、時の過ぎぬ所、割れの中に自ら種を蒔く乾きたる地衣のほか何も育たぬ所に候。空気は、忘れられたる鍛冶場よりの焼けし鉄の香りと、かつて炉より巻かし煙の尖りにて味付けられ候。隔てて保たれたる命、分たれぬ温もりの思ひ出に候。

古き町にて、燼にて敷かれたる路地は、古き男が杵と臼にて生計を立てし戸の後へ導き候き。石を臼の鉢の中にて塵へ碾き候き。そこにて、光は細き窓を通り切れのみにて打ち、永き暗さを散らすに決して足りず候き。卓の上にて、白鑞の匙と茶の鍋は、稀に来る手を待ち、空気は常に重く、沈黙の幾年にて重くされ候き。遠き丘の修道院は、驢の皮にて綴ぢられたる大冊を貯へ、頁は内へ巻かれ、読まれず候き。鐘は幾十年も鳴らざらず候き。塵は隅に集ひ、唯一の音は冷たき敷石の上の草履の擦りに候き。

隠者は、谷の呼びを拒み、番を保ち候。古き交易の路、かつて火薬の袋、根の土より掘られたる松露、炭の中に焼かれたる黒麦の麺麭の硬き皮を運びし隊商を思ひ出し候。すべて消え候。今、唯一の動きは、岩の突出の上に落ちる鴉より来り、その羽は空に逆らひて曇り候。ここ上の天候は残る霧雨にて、定まりて目立たず、隠者の外套の羊毛の中へ浸み、これを重くなし候。石の壁は、長く見捨てられ、外の世への印として立ち、一つ一つは幾世代の風と雨にて刻まれ、一つ一つは閉じられたるままの門に候。

されどこの孤立の中にても、人は日を形作る小さき仕方を見いだし候。人は古き白鑞の杯を磨き、反射の影を出し候。別の者は臼の中にて香る種を碾き、室を満たし沈黙を押し戻す香りを放し候。三つ目の者は、忘れられたる文の線を辿り、なほ声を携ふるかのごとく墨に従ひ候。あるいは、単に霧雨の中へ歩き出で、変はらぬ天候の定まりし触れを感じ候。

今日の色は薄墨に御座候。
Lucky Color: DimGray — #696969山に留まる者には沈黙を尊ぶ道あり、今は孤独を庇ひの形となし候。

隠者へ戻る