Colors for the Fool

今日の色を、牌より引く

牌を引く / 恋人

恋人の薄墨。中央の鏡に色が映る絵

薄墨

逆位 · #696969

恋人は逆位に出で、黄昏の沈黙の厨に二人の姿として立ち候。二人のあひだの卓は設けられ候。されども皿は触れられざるまま、部屋に降りたる静けさを映し候。外にて、街路は十一月の午後の遅き霞に覆はれ候。建物も枝も同じく包む天候に候。あらゆる窓敷に町の煤の膜を残し候。空気は涼しく、なほ落ちざる雨の香を運び、約し候へども控へ候。硝子の外の世界は、その縁にて褪せるやうに候。

古き川の谷にて、商人はかつて懐に白鑞の銭を入れ、水に押し迫る町を通る渡を求め候き。銭は互ひに音を立て候き。卓の二人の、曇れる言葉の如くに候。意図は半ばまで運ばれ、考へは相手の岸に触るる前に切られ候。二人のあひだに黒麦の塊が横たはり候。皮は粗く斑に候。誰かが手を伸ばせば、養ひを供へ候。一人は擂粉木を取り候。年の用ひにて滑らかに擦られたるものに候。その柄を辿り候へども、相手の目には決して会はず候。臼は重く、動かず候。胡椒の実にて満たされ、それらは潰されず、鋭さは内に捕らはれ候。

竈の上にて、薬缶は待ち候。鋼の身は時にて曇り、もはや光を捉へず候。待ちを知り、冷えを知り、決して十分には湯気と成らざる言葉を知る類の器に候。次の間にて、羊毛の毛布は椅子の腕に崩れ候。霧に縛られたる荒野を羊飼の運びし類に候。織りは密にして地味に候。温みを供へ候へども、招きは供へず候。窓の外の空は雲の天井に候。密に低く垂れ、空気の重く風の息を止むるとき、水夫のかつて見し類に候。

山の村にて、石工の手は川石を炉に圧し候。その面は滑らかにも粗くにもあらず、されども指の下にて常に見慣れ候。彼は沈黙の中に働き、未来の沈黙を庇ふ家を形作り候。道端の宿にて見知らぬ者のあひだに置かれたる、灯されざる灯籠の如く、人のあひだに降りる類の沈黙に候。そのあひだ、町の忘れられたる隅にて、古き新聞紙の積は塵を集め候。言葉は固く鎖され、頁は決して捲られず、聴く者に決して十分には達せざる物語に候。

行ひと決のあひだの静かなる場に捕らはれたる者には、試すに値する小さきものが御座候。人は土瓶を竈の上に置き、温まるを待ち、その静けさの最初の移ろひに耳を澄ますもよく候。別の人は麺麭に手を伸ばし、それを割つて開き、皮を散らせ、言葉なく供へらるる招きとするもよく候。あるいは毛布をより固く巻き、霧の転がり入るにつれ窓の傍らに坐り、見張る行ひの中に静けさを見出すもよく候。銭を揃へる行ひさへ、並べ、積み、その重みを感ずることは、別の類の会話の始まりを印し候。

今日の色は薄墨に御座候。
Lucky Color: DimGray — #696969静かなる隔たりと、言はるるを待つ言葉のための色に候。

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