二人の姿は夕の静けさの下に共に立ち、庭の古き石垣は二人と世界のあひだに候。手は互ひの近くに垂れ候へども、決して触れず候。空気は言はれざるものにて重く候。実は頭上に垂れ、林檎の皮は触れられず、誘ひ候へども決して選ばれず候。空は沈黙の中に頭上へ伸び、星なき穹窿に候。言はれざるままに残されたる言葉の痛みを、その広さの中に抱き候。二人は互ひの息を感ずるに足るほど近く候。されどもあひだの隔たりは広く候。霧に包まれたる島と島のあひだの湾の如くに候。
古き物語にて、漁夫は日没の遥か後に舟を押し出し、沈黙の空の下に大漁を求め候き。この時の海は深く秘かに候。その宝とその危きを隠し、男たちは静かに漕ぎ、灯を閉じ、水の夜と会ふ線のみに導かれ候き。かかる面を渡ることは、沈黙を信ずることに候。前へ一歩を踏まず、されどもなほどこかへ運ばるることに候。その旅には待ちの類が御座候。何も求めず、見返りにほとんど与へざる辛抱に候。
岸より遠く、僧院の鐘は晩課のために鳴り候。僧の袍の柔らかき羊毛は黄昏の涼しさを集め、擦れたる祈りの書は手の中にて重く感じ候。蝋燭さへ低く燃ゆる時に候。詠は、厚くなりゆく静けさを貫く糸に候。それぞれの兄弟は自らの部分を語り候。されども言葉は古き石の中へ消え、他の耳に達する前に褪せ候。回廊の外の書庫は帳面と秘事を抱き、狭き廊下は墨の記憶にてほのかに光り候。世紀のあひだ、綴りの内に封ぜられたる秘事に候。
別に、燕の一羽が夕を弧に渡り、屋根と夜の移ろふ縁のあひだに消え候。下の町にて、布の商人は染めたる絹の長さを卓の上に折り、光より影を多く落す灯の下にて滑らかに巻き候。風雨に晒されたる段にて、圧されたる葡萄の葉の鉢は夕餐のために入れらるるを待ち、触れられず、夕の涼むにつれて味は深まり候。頭上の空は遠き雷の重みを抱き、嵐は地平をゆっくり渡り、その到るは確かならず、その約は果たされず候。
小さき部屋の静けさにて、文は机の上に休み候。それぞれの行は丁寧に候。筆は最後の文の前に脇に置かれ候。窓は夜の空気へ開き、帳は、言はれたる言葉のあひだの場を満たす同じ静けさにて動き候。棚の上にて、擦れたる探偵の書は開かれず候。その物語は、答へが手の届かぬところに漂ふ場面にて休止し候。台の上にて、陶の杯は冷え、湯気はもはや立たず、飲む者の帰りを待ち候。
貴殿は黄昏の最後の光の下を歩き、答へを必要とせず沈黙の降りるに任すもよく候。送られざる文が御座候ならば、古き書の重みの下に挿み、別の夜のために残し候へ。貴殿は茶を一杯浸し、窓の近くにてゆっくり飲み、終へられざる会話の思ひを空気に運び去らせるもよく候。あるいは寝台の足に柔らかき毛布を折り、屋根の上の雨の最初の触れに耳を澄ますもよく候。
今日の色は夜青に御座候。
Lucky Color: MidnightBlue — #191970静けさの中に静かに立ち、答へは来るとすれば柔らかく来候。