Colors for the Fool

今日の色を、牌より引く

牌を引く / 月

月の濃石鼠。中央の鏡に色が映る絵

濃石鼠

逆位 · #2F4F4F

もう一夜が道の上に降り候。松明の炎が慰めを与へず、足の音、飼はれたるものと野生なるものとが、一つの音へ溶け合ふ種類の夜に御座候。牌の馴染みなる門の拱は、低き霧に呑まれ、冬の外套の古き羅紗のごとく柔らかく、記憶と忘却との間に掛かり候。旅する者は湿地の縁に立ち、地は足下に屈し、白楊と柳との輪郭は、彼の知るいかなる名にも答へぬ形へ溶け候。確実の時刻にも夢の時刻にもあらず、その間の何物かに御座候。月そのものが顔を背け、霧をして世界を書き改めさせたるがごとし候。

ここにて、彼方に横たはるものは光や影にては量られず、羊飼の小屋の上の石板の瓦の重き重みにて量られ候。雨はなほ止まず、瓦は滑り候。屋根は内なる者の秘事を保てども、上の星へは何も与へず候。近き野は、かつて畝と境の石とにて印されしも、今は犁の記憶と、地に低く育ち、土の薄きところにて栄ゆる多肉の植物の沈黙せる衣擦れとのほか、何も保たず候。旅する者の手は、古き庭の鋤の柄を見出し候。季節を通じて外に置かれたる種類にて、その面は、幾年の夜露が穏かな層となって降りることにて粗くなり候。鋤の縁は、時と使用とにて鈍り、地の遠き端の忘れたる井戸を張る石と同じに御座候。そこにて面は正午にても涼しく、下の水は土と、長く埋められたる雨との味を運び候。その石の色は濃石鼠に御座候。

歴史は、村と町とを形づくりし業を通じて、この時刻へ滲み候。丘より石板を割り、谷へ響きを送りし石切の人、一片一片を慣れたる律にて置き、袖に塵を付けし屋根葺き、道の流されたる後にもなほ立つ閾を彫りし石工に御座候。北にて、漁の人は黄昏に帰り、港の石組へ打ち込まれたる古き鉤に網を掛け、雲の様子にて来る天候の重みを知り候。広大にして雨の多き市にて、朝は列車の機関の緩き息と、平台にて待つ者の着たる重き外套とにて始まり候。これらの一つ一つ、屋根、道具、石、風雨にさらされた布は、同じ族に属し、季節と霧と、線の暈けて風景が秘事を明け渡すことを拒むときの不定とを通じて残り候。

今夜、霧は先の道を呑み、祖父母の語る伝説のごとく、実体を失ふまで薄くし候。炉の静けさにて唱へらるるものに御座候。庭の古き犬は鼻を上げ、垣の彼方に動く形が族か見知らぬ者かを言ひ得ず候。気は遠き雷の味を持ち、夜明け前の最も小さき時刻に来る種類に御座候。残るは、耐へるものへ手を伸ばすことのみに御座候。杯の下にて温まる石板の敷物の滑らかなる感、朝の粥に用ゐらるる石の鉢の安心なる重み、戸の傍らに置かれ、自らを告げぬ天候に備へたる傘の庇に御座候。確実の滑り去るとき、名の霧の中に溶くるときに残る物に御座候。

今日、貴殿は石の壁へ手を置き、昨夜の雨の残したる涼しさを感じ候へ。石板あるいはよく使ひたる手帳へ文を書き、先の道の明らかならぬときにも、言の意味を保つことを頼み候へ。屋根の上の雨の音を聴き、鋤あるいは石のごとく、夜の長きときにも、耐へるものに抱かるることを知り候へ。

今日の色は濃石鼠に御座候。
Lucky Color: DarkSlateGray — #2F4F4F霧の中にて道は再び名を待つべく、今夜の耐久は貴殿の灯に御座候。

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