月の薄き光にて、犬は夜の風へ鼻を上げ、狼はその傍らを動き、一歩一歩が定かならぬ道に沿ひて緩く候。潮の静けさは、陸の水へ滑る縁を印し候。二つの塔は立ちて見守れども、先に横たはるものについてはほとんど示さず候。両者の間にて、地は淡く移ろひ、夜そのものが何を顕はし何を秘するかを決し得ぬがごとし候。
北方の村の外に、収穫を待つ野が御座候。茎の一つ一つは月に撫でられ、近く寄りて立ち、風の横切るとき囁く、波打つ穂の海に御座候。昼の間、これらの野は村を養ひ候。人は畝を歩き、朝露を意味する湿りたる煌めきを見、働く手が鎌を低く掃き、一年の約束を腕一杯に集め候。夜、同じ野は影の場所となり、畝と小道との線は暈け、犬と狼との世界に御座候。古き話は、これらの植物のかつて最も厚く横たはりしところに、最も野生なる夢が根を張り、月の野への一瞥が思ひと現実との線を薄くすると申し候。その植物は小麦に御座候。
これらの野の穀物は麺麭となり、小屋の内の粗く削りたる卓の上に坐る麺麭となり、織りたる布にて覆はれ候。その布は質素なれども堅く、収穫の後に残る繊維より作られ、風が離れし茎を壁に鳴らす長き夕に紡がれ候。時に、夜明け前の静けさにて、誰かが起き、扉を引き開け、切り株の地の上を霧の巻くをただ見、かつて平原を越えたる古き隊商を想像し候。穀物の嚢の一つ一つが、信頼と生計との量りに候き。
市の市場にて、嚢が屋台に並び候。あるものは忙き厨へ向かひ、あるものは醸造所へ、なほ多くのものは、すべての川の路に沿ひて家名の知られたる商人へ向かひ候。交易はいかなる図よりも古く、一掴みの一つ一つが、危さと報ひとの古き取引、雨と旱との盟を示し候。麺麭屋の窓にて、温かく焼き立ての塊より立ち昇る香は、数へ切れぬ季節を思ひ出させ候。慰めには広すぎる空の下の長き日、胡狼の遠き音と、流れの畔の葦に潜む蛙のより近き歌とに満たされた夜に御座候。
ある朝、空は低く厚く、野に落ちる光は穏かにて、一つのものにも他のものにもあらず候。気は土と、過ぎたる嵐の鋭く草の記憶とに香を付けられ候。農夫は停まり、靴を深く植ゑて、その日が雨を運ぶか晴れを運ぶかを量り、隣の小屋の女は天候を見て、麺麭の生地をいつ窓の傍らへ置くかを知り、気が親切なることを頼み候。
今日、貴殿は野の傍らの静かな道を歩き、手をして高き草の頂を漂はせ候へ。厨にて生地を捏ね、幾代も同じことをせし手を思ふもよしと存じ候。黄昏に織りたる布を卓の上に敷き、あるいは夜明け前の静けさに浸り、一歩一歩を問ひとする定かならぬ光に導かるることを想像し候へ。
今日の色は小麦に御座候。
Lucky Color: Wheat — #F5DEB3月の示す道を、その全きに及ばずとも辿れば、収穫が貴殿に静かな信頼を思ひ出させ候。