池は乾きたる地に縁取られ候。粘土の縁は静かにて、昨日の水際は微かなる環を残し、空の映りは抑えられ候。二つの瓶は置かれ、側面へ柔らかく傾けられ、誰にも取られず候。流れの後の静けさの中に休み候。今のところ、注ぐ手は御座なく、渇きたる土へ道を辿り戻る細流は御座なく候。星は上にて待ち、変はらず候へども、地は退き、かつて約にて揺らめきたるところにて脆く候。
旧き名を帯びる場所、錫耶納は、多斯加納の尾根の上に坐り候。その丘は幾世掘られて形づくられたる土にて層をなし、土は日と風とにて焼かれ、藁と混じ、煉瓦に押され、村の窯にて焼かれ候き。絵を描く者の時、職人はある土を掬ひ候き。細く、粉にて、鉄に富み、川岸より取り、塵に碾き候き。これらの粒は袋にて旅し、騾馬の道と商人の車とを越え、修道院より都へ交易され、描く者の櫃に終はり候き。色料は聖人の袍、聖なる影、礼拝堂に黄昏の落ちるときの聖母の外套の裏と成り候き。それは岩の辛抱なる風化と、篩ひて捏ね、碾きて混じ、静けき土より話を引き出す手の労とより作られたる色に候。その色は赭に御座候。
台所の卓にて、素焼の鍋は脇に置かれ候。その粗さは掌に合ひ、火の記憶と指のあひだの粘土の圧とを抱き候。麺麭はその壁に対して脹り、竈の冷え日の遅きとき、鍋は空にて坐り、次の要を待ち候。竈の上、幾年の用にて暗くされたる木の匙が、ひびの入りたる皿の上に休み候。その椀は香草の香、蕃茄の香、黄昏に窓を通して漂ふ煙の香を帯び候。匙の柄は同じ手の触れより日々滑らかにて、その在りかは不在と待ちとの両方を示し候。食事は終はり、次のものは未だ始まらず候。
錫耶納の外の畑にて、耕されたる列が地を印し、収穫の後に畝を入れられ候。風の移るとき塵は上り、農家へ戻りて渦巻き候。地は裸にて、旧き麦の根は露はれ、地平は労の記憶にて筋を引かれ候。これは待つ季節、雨の前の間に候。葡萄は樽に搾られ、搾り器は粘り、その木の桟はなほ収穫する者の仕事より染まり候。空気は土と去年の育ちの味を放ち候。市にて、男女は黄土の色の陶器、薪の竈より暗くされたる麺麭の板、梁より吊るされたる塩漬けの肉を売り候。各々の物は同じ地にて形づくられ、各々は時の緩き辛抱を帯び候。
逆位の星は、水の奔りには御座なく、後の静けさに候。置かれたる鍋、清められて待つ筆、休息の季節の畑に候。流れの止まりたるとき、堪へるものへ帰る辛抱に候。今日、貴殿は手にて生地を捏ね、仕事の感の中に思ひを地に着け候。或は縁側を掃き、箒の下に塵を山に集め候。木の柄を磨き、或は空の鍋を窓敷に置き、動いて居らざるときのものの静けき用を尊び候。これらの小さき所作は、土と労の話、後のために脇に置かるるものの話、雨を待つ話を伸ばし候。
今日の色は赭に御座候。
Lucky Color: Sienna — #A0522D静けさは希望の形とも成り、椀は再び満たされ候。