天使の杯は傾き、水は岩を筋にて下り、分かつ前に渇きたる地へ浸み候。配合さるべきものは漏れ去り、むらに湿りたる地の一区画を残し、草を通して囁かれたる警告に御座候。庭は、均衡の敗れたる別の時を思ひ出し候。古き商人が、波斯の遠き丘より旅し、小さく硬き甲虫の殻を割り、その宝を放ちしとき候。砂漠を越えて運びし秘密は、同じやうに容易にこぼれ候き。砕かれたる収穫は、指を染め、羊毛へ、羊皮紙へ、浸さるるを待つ袍の裾へ滲み候き。
古き地中海の市の一つ一つが、かつてこれに微かに匂ひ候き。鋭く、金属の如く、物語にて生き候。君士坦丁堡にて、女は静かなる中庭に跪き、炭の上の沸く水の鍋を掻き、絹の綛を、染料を定着させる湯気の浴へ持ち上げ候き。手は染まり、爪は労働の印にて縁取られ候き。その色は商ひ、権力、時に破滅に御座候き。商人の運は、一回の積荷の安き渡りにて、勝ちまたは失はれ候き。宮殿の長き廊下にて、同じ色合ひは天鵞絨の帳へ滲み、王の足の下に溜まり候き。されど外へも滲み、通りへ、その日の雨とともに小さき流れにて走り候き。
外の雲は重くなり、優しくは静まらざる嵐の印にて暗く候。風は、裂け開く空の約束を運び、それとともに、新しき収穫を植ゑたる西班牙の畑の記憶を運び候。そこに、石榴は石に当たって裂け、不注意なる歩みのたびに種は散り候。かつて神殿と条約とのために取って置かれたる果実は、今は木の下に発酵するまま残され、汁は土へ走り候。果樹園は、保たるる前に失はるるものの地図と成り候。旅人は不注意に踏み、靴は甘みにて粘り、地そのものは不均衡の方へ傾き、豊かさより無駄へ転ぶやうに見え候。
台所の屋根の下、小さき小刀がきらめき、その刃は晩夏の実を切る仕事にて染まり候。すぐりと桜桃とを、砂糖とともに煮て、今は薄すぎて流るる果実の液のためのものに御座候。ある人は布に手を拭ひ、染みは褪せることを拒み候。屋根裏と穴蔵とにて、古き綴織はこの落ち着かざる色合ひの物語を語り候。過去より引かれたる糸、織られ、解かれ、再び織られ、決してまったく合はず、最初の不注意なるこぼれにて失はれたる調和を、常に探し候。
今日、貴殿の手に、古き羊毛の静かなる重さを求めさせ、貴殿より前にこれを染めたる人を思ひ出しつつ、それを持ち候。鋭き果実の酒の瓶の最後を注ぎ、配合されず成されざるものへの供へとして、石の上へ撥ねさせ候。石榴の硬き皮に筋を入れ、汁を抑えず、収められず走らせ候。新たに染みたる紐を貴殿の手首に結び、かかる印を運びたるすべての手との繋りを感じ候。
今日の色は深紅に御座候。
Lucky Color: Crimson — #DC143C均衡はすべてを固く握ることにては見出されず、こぼれたるものを尊ぶことにて見出され候。