牌の上にて、御者は二頭の生き物のあひだに立ち、繋がれ候へども反対の方向へ力み候。足は地を憂へ、前へも引かず、譲らず、その力は互ひに対する闘ひのみを養ひ候。戦車そのものは揺れ震へ、車輪は決せられざることに鎖され、塵はその基に集まり候。旅は行き先を失ひ候。残るは動きのみに候。
この張りは、古き峡谷を貫く執念の川を思ひ出させ候。石を彫り候へども、時に二つの鋭く裂けたる崖のあひだに捕らはれ候。古き土地にて、旅の人は鉄を含む粘土の跡を辿り、雨の後ほとんど焦げたるやうに見ゆる丘のあひだを歩き候き。黄昏、空は時に雲にて厚くなり、あまりに重く低く、蓋の如く圧し、嵐を約し候へども遅き燻る霧雨のみを届け候き。羊飼はかかる天候に彷徨はざるを知り候き。軒の下より、地の暗くなるを見候き。古き傷の記憶を引き込むが如くに候。
町にて、鍛冶はかつて夜の遅くまで輝き、炉は川岸よりの煉瓦にて縁取られ候き。鍛冶は打ち、混沌より形を追ひ候き。されども火の不均等に燃ゆるとき、金属は焼入れを失ひ、誤れる仕方にて曲がり候き。弟子は床を掃き、落ちたる釘と小さき粗き銭を集め、火花にて顔を照らされ候き。火花は踊り、擦れたる革の前掛の上に降りる前に死に候き。時に、最も若き者は石榴を懐に入れ、手の中に回し候き。皮は硬くほとんど突き抜けられず、汁は秘かに指を染め候き。
語り手は、城壁より遠き葡萄畑を語り候き。葡萄の蔓は古き杭に捻れ、塊は厚き葉の下に隠れ候き。晩夏、働き人は小刀と籠を携へて来たり、後に圧され蝋にて封じたる瓶に納めらるるものを零さざるやう心を込め候き。酒蔵は常に涼しく鋭き空気を抱き、息を止むるが如く、次の祭、あるいは去りし者の帰りを待ち候き。松明の下にて、甕は光り、闇の中の番兵の如く列をなし候き。
厨は自らの思ひ出を抱き候。竈の上にて、鋳鉄の鍋は待ち、年の用ひにて味を帯び候。根菜は内にて焙り、皮はわずかに皺み割れ、壁に附く香を放ち候。台の上にて、木の擂粉木は乾きたる唐辛子を潰し、種子を俎の上に散らし候。近くに杯が坐り、桜桃の煮詰にて満たされ、面は厚く甘く固まり、匙は戦の後の旗の如く休み候。
すべてが異なる方向へ引くとき、自らを集むる仕方があり候。人は雨の後に川岸を歩き、水の石と争ふに耳を澄まし、一歩一歩に彷徨ふ心を錨とするもよく候。厨にて、鍋をゆっくり攪き、あるいは実を瓶に圧すことは、落ち着かざる手を儀式に変へ候。すべての動きが進みには御座なく、されどもあるものは必要なる、との思ひ出に候。空が重き嵐を脅せば、戸を閉じ、小さき火を灯すことは内の空気を落ち着け候。あるいは、人はただ石榴を握り、手の中に回し、その重みと強さを感じ、分かたれたる種子さへ収穫を形作り得ると知るもよく候。
今日の色は濃赤に御座候。
Lucky Color: DarkRed — #8B0000闘ひの中にても、心は家への道を覚え候。