果樹園の門は蝶番にかかり、野生の風へ半ば開き候。かつて丁寧なる手にて手入れされしものが、女帝の足元の土は、もはや返されやはらげられず候。落ちたる枝は、かつて梨の膨らみし列を乱し候。晩冬に炉端にて柳より固く編まれたる籠は、軒の下に用ゐられずに坐し、内は多くの収穫されぬ季節の塵を集め候。雨は閾に水溜まりを残し、泥は日に乾き、それから割れ候。家は古き庇ひの温みと重さとを抱き候へども、収穫の笑ひを包み、麺麭の香りは卓より欠け候。
年長者の物語にて、庭は約の場所にて、小麦が地より立ち、その守り手を養ふ世に候。川の谷よりの物語は、牛の耕す野、良く保たれたる鋤の金属の割る土塊、畝へやはらかく押されたる種子を語り候。かかる物語にて、家は竈の脈にて輝き、麺麭は厚き布の下に膨らみ、分たれたる豊かさの証に候。されど女帝の世話のよろめくとき、収穫は野に残り候。穀倉の扉は閉ぢたまま、風は空の列のあひだに籾殻を掻き混ぜ候。
この季節の地理は、近く重く感じられ候。家の下の斜面にて、地の出すべきところ、道は轍にて凹み、根に絡み候。栗は木より落ち、触れられぬまま横たはり、殻は遅き日光の中に割れ候。路地の遥か下にて、革工房の空気は厚く強く香り、革は架の上に硬くかかり候。厨にて、麺麭箱は縁にて硬く成る皮のほかは空に候。かつて粉と水とを捏ねし手は、今、卓の上に休み、静止し候へども、なほ開かず候。穴倉にて、扁豆と豆との袋は触れられず、蜂蜜の石器の瓶は蝋にて封ぜられ、甘みは隠されて去り候。炉も静かにて、古き木の匙はその瓶に立てられ、粉の篩は怠り候。
ときに、外の世は内の静けさに合ひ候。天気は雨の直前に浮かび、雲が地の近くへ圧すとき、返されたる地の香りは立ち候。野は待ち、働かれず、浸りて頑なに、鋤の小屋に留まる各の日と共に、植ゑることの約は退き候。時と共に重く成る待ちにて、森の縁の集められぬ木、あるいは扉の後ろにあまりに長く掛けられたる外套の荷の如くに候。夜は早く落ち、灯の輝きは小さく見え、顔を家の心へ内に引き候。
今日、貴殿、葉より閾を掃き清め、入口に秩序を運ぶも候。散らばりたる栗を籠に集め、各の朝に見るところへ並べるも候。再び生地を捏ねることを選び、手の温みと、押し折る調子とに、静けき厨を目覚めさせるも候。あるいはただ、古き木の匙を磨き、かつて鍋を掻き混ぜし見慣れたる形を感じ候へ。
今日の色は茶に御座候。
Lucky Color: Brown — #A52A2A貴殿の手を、庭は待ち候。