Colors for the Fool

今日の色を、牌より引く

牌を引く / 尼院長

尼院長の黒。中央の鏡に色が映る絵

黒

逆位 · #000000

社は黙し候。帳は入口の上に厚くかかり、各の襞は光の最後の跡を飲み候。尼院長の膝の巻物は閉ぢたまま、縁は固く押し合はされ、一文字すら逃げず候。座の下にて、弦月は古き煤の層の下に隠れ、石の柱と真夜中の香との世の、一つの影に候。聖所の外の庭にて、池は淀み不透明にて、面は切れず候。かつて映りし水は、いかなる幻をも出すことを拒み候。根は土の下に捩れ、石炭と龍葵との床を縫ひ、日光の追ひ得ぬところへ、より深く坑道を掘り候。

黒曜より成る壁に囲まれたる街を語る、古き神話が御座候。滑らかにて突き通せず候。その門に着く旅人は、門の封ぜられたるを見出し、面は手の下に冷たく、入口に継ぎ目は御座なく候。その街にて、秘密は分たれず候。玄武の街路に定まり、茶の櫃の開かれぬ倉庫の、灯なき隅に集まり、香料は鉄の瓶に錠せられ、物語は語られる前に褪せ候。上にて、空は伸び、来たる嵐の脅かしにて重く候。鴉は屋根の梁に集まり、誰も聞かぬ警告を鳴らし、羽は黎明の不在の中に輝き候。煙は遠き煙突より立ち、空気の中へ巻き、下なる炉を知らせる前に溶け候。

仕事の世にて、鍛冶は金床にかがみ、決して閃きを捉へぬ鉄を打ち、金庫と日記とを封じたるままに保つ錠と掛金とを鍛え候。煤の印を付けたる手は、各の仕掛けを嵌めるとき丁寧にて、内に納められたるものが触れられぬまま残ることを確かめ候。鉱夫は地の中へ降り、灯は閉じられ、沈黙との交渉なる各の一歩の坑道にて、無煙炭の筋を追ひ候。掌と顔とを縁取る灯煤は、容易には洗ひ去れぬものの印に候。隠れしもの、埋められたるもの、語られぬものに候。

厨にて、扁豆は重き鋳鉄の鍋に煮え、香りは遅く土のやうなる波にて立ち候。女は臼にて胡椒を碾き、小さき球は割れ開けど、その心を決して明かさず候。麺麭の皮は、耐心と差し控えられたる熱とを語る暗さまで焼き候。卓は石器にて設へられ、皿と杯とは、食されるものを抱き、全き光の中には決して示されず候。隅にて、絹の糸巻は待ち、夜の蛾の仕事より紡がれ、真夜中と朝とのあひだに成されたる約の如く、柔らかく秘密めき候。

風は強まり、雷の音を運び候。窓は鳴り、雨戸は保ち候。雨は降れども、樋は葉の腐葉にて塞がり、細き流れは閾に集まり、墨の如く溜まり候。世が穴倉の如く感じらるる日が御座候。涼しく風なく、棚は年に中なるものを隠されたる瓶にて縁取られ候。これらの一刻にて、招きは突き破ることには御座なく、内を静かに動くことに候。各の蓋、各の錠の扉の後ろの、重さと可能性とに気づきつつ候。

今日、人は灯さぬ炉の傍らに坐し、言はれぬことを聴くことを選ぶも候。手帳に秘密を書き、古き地図帳の頁のあひだに仕舞ふも候。あるいは黄昏に電線の下を歩き、頭上の鳥の影を数へるも候。鉄の鍵を、輝くまで磨き、それから誰も見付けるぬところに残し、ある神秘は、守られるためのものに候と覚えて候。

今日の色は黒に御座候。
Lucky Color: Black — #000000暗き中の石の耐心にて歩み候。

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