Colors for the Fool

今日の色を、牌より引く

牌を引く / 月

月の薄紫。中央の鏡に色が映る絵

薄紫

正位 · #E6E6FA

深夜の縁、移ろふ月の視線の下にて、曲りたる道が二つの古き石の塔の間に震え候。地は柔らかく、露は立ち、耳を低くして嗅ぐ犬の足跡と、湿りたる気へ鼻を上げて停まる狼の跡とが、近く押し並び候。道は決して明瞭にはあらず、月の光が茨の上を漂ふとき、世界は半ばのみ見え候。路傍の水溜は空を抱き、遠き潮の引きに漣立ち、静けさを破るは遠き鐘のみに御座候。

二つの塔の間にて、世界は黄昏と柴の匂ひを持ち、なほそれより柔かきものを持ち候。夜明け前の涼しき時刻、野に並ぶ小さき薄紫の花より、風が運ぶ香に御座候。その列を動く手は、穏かな忍耐を学び、穂を摘みて嚢へ入れ、束ねて厨に吊り、あるいは亜麻の抽斗へ収め候き。香は指先に残り候。清く、鋭く、少し甘く、常に見えぬ土地を匂はせ候。普羅旺斯の丘と英吉利の丘陵とにて、これらの野は幾世紀も横たはり、小さき花より搾りたる油が珍重され、硝子と軟木とに貯へられ、長き道を越えて市へ運ばれ候き。

古の薬舗にては、干したる小枝を輪と香袋とに結び、影を避け、夢を宥むるため、夜を歩き廻る何物かを恐るる者の枕の下へ収め候き。眠りの閾にて、同じ摘みし花の上へ注ぎたる水より、湯気の杯が立ち、室を温もりにて満たし候き。その蒸気は、目覚めより夢への移りを印し、定かならぬ道へ踏み出す者の導に御座候き。船人は葉を指の間にて揉み、潮が故郷より遠く引くとき、鋭き香にて思ひを定むることを頼み候き。

天候が、手によらずして花を運ぶことも御座候。高き谷にては、朝の霧が低く掃きて丘を和らげ、最初の日が野に当たるとき、土は同じ香を吐き候。羊飼は、群れとただ一人にて、その静けさと慰めとを知り候き。羊毛が茎の列を擦る音、蜂の脈、頭上の雲の緩き転りに御座候。そこにて世界は、目覚めと半ばの光、飼はれたるものと野生との境を、新たに引き候。

家の中にて、小さき瓶が棚に待ち、湯へ傾くるも、眠る前に額の脇へ押すも、用意が調ひ候。手にて染め、幾度の洗濯に褪せたる古き卓布は、杉の櫃にて幾年を経ても、微かなる香を保ち候。遠き地より送る文は、押し花を内に携へ、残されし者への形見となることも御座候。花の在ることは、香にせよ、薬草にせよ、記憶にせよ、静かにして執拗に御座候。影を貫く糸にて、光の薄るとき道を印し候。

今日、誰かは穏かな浸しを煮、湯気を立てて、不定の中を緩く動くことを思ひ出させ候。貴殿は眠る前に小枝を掌にて揉み、あるいは異様に感ずる閾を越ゆる前に、それを懐へ滑り込ませ候へ。小さき束を戸口の上へ吊り、あるいは安心を要する者へ文を書き、褪せたる小さき花の約束を内へ収め候へ。

今日の色は薄紫に御座候。
Lucky Color: Lavender — #E6E6FA貴殿は半ば見える道にて薄紫の花を頼み、夜の気に穏かに運ばれ候。

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