Colors for the Fool

今日の色を、牌より引く

牌を引く / 月

月の煙白。中央の鏡に色が映る絵

煙白

逆位 · #F5F5F5

ある夜は霧にてあまりに厚く、家への道は溶け候。月の半ばの光の下にて、馴染みなる姿は暈けて混じり候。見守る犬と野生の狼とは名を脱ぎ、その形は影へ溶け、霧が地より這ひ、後と先との跡を呑み候。記憶の印したる道は微かなる窪みとなり、沈黙は集まり、夜そのものの息のごとく静かにて御座候。灯の輝きは、見えぬ窪みより巻く流れに鈍らされ、その淡き煙は立ちては畳まれ、穏かにして通り抜け得ず候。世界と世界との門は帳の背後に隠され、世界そのものは静まり、屍衣の内に吊られ候。その煙の色は煙白に御座候。

この蒸気を知るは神話のみにあらず候。古き村にて、夜明け前の時刻、炉は焚かれ、焚き付けの松と古き林檎の木との細き息が屋根より立ち昇り候。それは集まりたる軒の上に漂ひ、あらゆる角を和らげ、温もりの物の怪にて気を刻み候。遠き野にて、朝の冷気は露に濡れたる草と静かな池とより同じ霞を引き、地を包み候。山の道の旅する者は、外套に包まれて停まり、谷の上に坐る僧院より滑る煙を見候。目覚めの合図、麺麭の膨らむこと、茶の煮えること、やがて鐘が気を動かすことに御座候。

煙は、終りとも始まりともの印として歴史を漂ひ候。梵蒂岡より、ある淡き雲がかつて市に、新しき牧者が選ばれたることを告げ候き。その立ち昇ることは幾千もの者に見られ、意味は日照のごとく明らかにて候き。より謙なる家にて、同じ穏かな膨らみは、食事の調ひたることを知らせ候。穀物の焙られ、あるいは魚の干されたること、忍耐の労働と慰めの約束とに御座候。工人もこれを知り候き。陶工の窯は、いったん火を入れられれば蒸気を吐き、陶器が土以上のものとなるとき、器の心がしばし去りて、また戻るがごとし候。

この屍衣の支配する天候が御座候。地平は消され、窓の外の世界は静かにてぼんやりとなり候。それは嵐や雷とともに来たらず、静けさとともに、市と野との上に気の降りる、縁なき緩き毛布とともに来たり候。子らは硝子の曇りに形を描き、自らの息が面を曇らせ、帳をなほ重ねるを見候。かかる日、家の内にて時は異なりて動き候。洗濯物は内に掛けられ、その湿りが厨に蒸気の最も微かなる跡を残し候。祖母の卓布は、糊を付け熨され、古き木の板の上に広げられ、滑らかにしてほとんど重みなく、朝食を待ち候。

卓の上の布、僧院の息、遠き炉よりの確かな柱、一つ一つが通過と、庇と、真実と話との混じる間とを印し候。これらの瞬間、明瞭は隠されも顕はされも候。目より失はれたるものは護られ、和らげられたるものは新たに見らるることも候。この屍衣の内に住むことは、世界の輪郭の溶くるときにも、次の一歩を見出すことを貴殿の足に頼む学びに御座候。

今日、貴殿は香の一筋を灯し、蒸気の糸の螺旋して消えるを見、心をしてその彷徨ふところへ従はせ候へ。洗濯より新しき巾を畳み、空白の始まりのごとく平らに撫でるもよしと存じ候。窓に立ち、息をして硝子を曇らせ、やがて消える霞の中に願を辿り候へ。あるいは夜明けに戸外へ踏み出し、庭あるいは路がその静けさに包まるるとき停まり、世界が全く自らならぬとき何を言ふかを聴き候へ。

今日の色は煙白に御座候。
Lucky Color: WhiteSmoke — #F5F5F5霧が名を沈黙へ戻すがごとく、貴殿の今日は穏かに定まり、世界の静まる間に真実は待ち候。

月へ戻る