Colors for the Fool

今日の色を、牌より引く

牌を引く / 塔

塔の薄墨。中央の鏡に色が映る絵

薄墨

逆位 · #696969

一つの鐘楼が、幾世のあひだ、古き石の村の上に立ち候き。その角は直角にて、その縁は風にて欠け候。塔はかつて警告を約し候き。その窓より煙は見守られ、嵐は辿られ、夜の番は侵入者を見候き。されど近頃、内の鐘は鳴らざり候。ひびは蜘蛛の如く深く成り候へども、石は不確かなる吊りにて着き、名の残るかぎり全体はなほ塔と呼ばれ得るかの如く候。北方の湿原の縁に、このやうな場所が御座候。天候は警告と遅れとの両方として役立ち候。雷が空を裂く遥か前、低き雲の覆ひが湿地の上に掛かり、屋根と畑とを静けさへ押し候。石と空とは、両方とも帳の奥に秘事を保ち候。

この風景の神話にて、塔は警戒のみには御座なく、否認に候。損害の真の広さを認めることの拒みに候。大火の後、村人は築き直すためには帰らず、難破船と柵より拾ひたる梁にて空洞の塔を支へるために帰り候きといふ伝説が御座候。彼らは煤の上に塗り、崩れたる小屋より拾ひたる灰泥にて穴を繕ひ候き。鐘は見つかりたる屑より鋳ち直され、その形は不均一にて候へども、その目的は減らず候き。今も塔の影は川の上に起ち、光の失はるる黄昏、すべてが重き黄昏へ溶け、夜にても昼にてもなきとき、その輪郭は不確かにて候。

岸に沿ひ、葦は厚く叢がり、その茎は去年の洪水より脆く候。朝、漁夫は日の前に出で、舟は水のすぐ上に坐る霧を滑り候。その長靴は、泥と灰の中の多くの季節にて乾かされ、生存の印を運び候。すべての畳みに押されたる粗き粘土、縫ひ目に碾き込まれたる炭の片が御座候。彼らは錫の手桶にて漁を家へ持ち帰り候。手桶は幾年雨に置かれて傷み鈍り、かつて炉の光にて明るく光りたるものの記憶に候。家もこの話を語り候。屋根の石板は時と天候にて滑らかに、炉石は煤と丁寧なる手とにて筋を入れられ候。

内にて、家族は鉄の竈の周りに集まり候。幾代を温めたる種類に候。屋根をほとんど奪ひたる嵐の話と、鐘の音の止みたる後にも席を去らざりし番人の話とが御座候。毎夕、風が戸板を押すとき、誰かは古き毛織の毛布へ手を伸ばし候。洪水の前に丘腹を食みたる羊の毛より紡がれ候き。その糸は厚く、雨に浸りたる石の色にて、外の世界を消し候。卓の上の灯は傷みたる薬缶にて護られ、その面は炎の上の幾年にて斑に候。常のものに慰めが御座候。森の縁より集められたる茸、石の上にて焼かれたる麺麭、来る嵐より逃るる椋鳥の残したる羽に候。

今日、廃墟に降伏せずして塔の呼びに応へんと望むならば、貴殿は古き道に沿ひて歩き、長靴の先にて舗石のひびを辿り候。炉の抑えられたる光を面が映すまで鋳鉄の鍋を磨き、或は遠き雷の揺りを聞きつつ窓の傍にて毛織の肩掛けを繕ひ候。机の上に滑らかなる川石を置き、変はる空の下に堪へたるものの印となし候。

今日の色は薄墨に御座候。
Lucky Color: DimGray — #696969傾くものもなほ立ち、沈黙の中にても鐘はその役を忘れず候。

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