雷は夜を分ち候。塔の石は裂け、鉄の冠は転げ、鋭き断片の雨が続き候。幾年も築かれ封ぜられたるものは、唯一にして絶対なる一撃にて日の光へ押し出され候。かつて侵されざる壁は、今は天候に開き、その骨は露はれ候。空気の中、土と塵の苦き香が上り、地には砕けたる瓦と破れたる粘土の残骸が散り候。
麓に立てば、貴殿は歴史の重みを感じ候。大陸を越えて、塔はかつて落ち候き。嵐に打たれたる鐘楼の積み塊が村の広場へ転げ、幾世前の都の古き竈が包囲と飢ゑの下に割れ、焼きたる煉瓦が熱の中に緩み候き。これらの塊は火と洪水と霜とに堪へ、まず窯の芯にて鍛へられ候。窯の光は猛く候。その腹は材木と石炭にて養はれ、轟きはあまりに高くして世界の音を没し候。ここに土は焼かれて、残る形と成り候。古き街にて、この硬き粘土の塊は拱と炉と壁とを築き、寒き地に温かき場所を作り候き。
廃れたる塔の静けさの中、貴殿はこのやうな煉瓦の塊を見出すことも御座候。縁は鋸歯にて、なほ割れず候。それは火の記憶、形づくることの記憶、それを積みたる手と、その形を封じたる炎との記憶を抱き候。柔らかさは御座なく候。試練を生きたるもののみが御座候。古への石工は、塵の着きたる前掛けを着け、袖は焦げ、窯へ入れて引き出す手は胼胝にて硬く候き。彼らは低き声にて、その日の仕事と、焼くことの危きと、熱の誤りたるとき或は嵐の早すぎたるときに塊の割れ得ることを語り候き。
時に、塔の落ちたる後、雨は屋根なき殻を通して降り候。水は残骸のあひだに滲み、焦げたる地の香を運び候。先の畑にて、果樹園は雷を脅す雲の下に立ち候。煙の香は遠き煙突より漂ひ候。誰かは救ひたる煉瓦にて作りたる炉を守り、冷えに対して煮込みの鍋を温め候。崩れの中にても、断片は新しき用を見出し候。瓦礫より繕ひたる庭の壁は、豆と苦き葉菜の列を囲み候。旧き塊は掌の下に粗く候へども、風を遮り、家の縁を印し候。
嵐の過ぎたる日、鏝の煉瓦に当つる鋭き音が路地に響き候。子どもは破れたる塊より塊へ跳ね、廃墟の中に遊を工夫し候。築き直す仕事は手と灰泥より始まり候。積み、押し、水平にすることに候。台所にて、麺麭は落ちたる塔の石の上にて焼け、その皮はかつて壁を焼きたる同じ熱にて筋を入れられ、焦がされ候。人は低き床几に集まり、灰の如く柔らかき声にて話を分ち候。
崩れの影の中に自らを見出すならば、貴殿は最も近き古き煙突へ歩き、かつて屋根を支へたる粗き面を感じ候。貴殿は庭より破れたる煉瓦を集め、新しき育ちの縁に積み候。貴殿は竈の傍にて麺麭の塊を脹らせ、熱と石の記憶にてその形を強め候。貴殿は散りたる断片を小さき山に掃き集め、嵐の後に残るものの思ひ出として保ち候。
今日の色は火赤に御座候。
Lucky Color: FireBrick — #B22222堪へたるものより始め、再び築き候。