夜は静止し、一筋の落雷にて割れ開かれ候。空に対して孤立せる古き石の小塔は、多くの嵐を堪へ候き。されどこの度、雲の不意は雷鳴にて、彫られたる楣を転げ落とし候。地の上、落ちたる冠は緩みたる丸石と潰されたる小石のあひだに横たはり、崩れの遺物に候。空気は雨の香と、何か古きものとにて鋭く、灰泥そのものが息を吐きたるかの如く候。要塞の内にかつて隠れたるもの、秘事か、祈りか、差し控へたる警告かは、突然の開きの中、敷石の上にこぼれ候。
塔の下、道は固く踏み締められ候。乾きたる塵にても滑る泥にてもなく、幾世の足にて擦られたる中間の地に候。古き話にて、荒野を越ゆる旅人は石の小屋に庇を見出し候き。その屋根は地衣にて綴られ、炉は冷たく候き。鑿の記憶にて粗き壁は、過ぎたる嵐の話を響かせ候き。すべての古き城は、時のほか何も動かざる室を持ち候。火は記憶にて、唯一の伴は、決して来たらざる未来のために脇に置かれたる薬缶に候。翌朝、霧は畑の上に低く巻かれ、残骸と生き残る者とを同じく覆ひ、縁を柔らかくし候へども、ものの新しき形を全くは隠さず候。
廃れたる壁の先、川はこれまで通り動き、静けき洪水の中に過去の断片を運び候。霧に覆はれたる日、世界は距離を失ひ候。丘は影絵に縮み、遠き鴉の呼びは呑まれ候。都にて、並木の遥か上、屋根は空の重さを近くに集め候。屋根師は石板の塵にて印されたる手にて、移る空を見るために立ち止まり、父の業を思ひ候。静けき台所にて、祖母の土瓶は卓の上にて冷え候。かつて明るかりし釉は、風雨に堪へたる白鑞の色に曇り、再び割れんと脅す雲に響き候。柄は温かく、誰かが戻りて日を正しくするを待ち候。
変はりの仕事は常に残りを残し候。石工は落ちたる断片を集め、その縁は破れより鋭く、いづれを保ち、いづれを次の雨に流すかを疑ひ候。岸にて、数へ切れぬ潮にて滑らかにされたる小石は、そこを歩く者に、各々の嵐が明かにし、剥ぎ、顕はすことを思ひ出させ候。崩れの後、生き残る者の外套は、かつて晴れ着のために織られ候き。今は日が記憶にて空が冷たく名なきとき滲み入る冷えを払ふために役立ち候。抽斗の深きより、非常のために保たれたる燧石は、炉を再び点ずる新しき用を見出し候。外にて、日は港と高地とに共通の天候のみを供へ候。冷えと湿りにて、全くの雨には御座なく候へども、旧き塵を沈め、土の香を引き出すに足り候。
今日、ある人は歩きにて風に向き、もはや立たざるものを空気に澄ませ候。古き鍋か石かを見つけ、戸の傍に置き、自らのために変はりを印すことも候。食料庫の持つものより静かに食事を調へれば、動揺の後に残るものを尊び候。上がり口を掃き、緩みたる砂利を集め、或は石の壁を繕ふこと、各々の行ひは次に来るもののために、実際にて簡素なる新しき土台を敷き候。
今日の色は鼠に御座候。
Lucky Color: Gray — #808080破片の沈むを待ち、残るものは新たに得たるものに御座候。