Colors for the Fool

今日の色を、牌より引く

牌を引く / 旅人

旅人の白。中央の鏡に色が映る絵

白

正位 · #FFFFFF

若き旅人、地の尽きて空へ渡る際に立ち候。爪先は絶壁の上にかかり、負袋は一方の肩へ無造作に掛かり候。傷なき薔薇の一輪、朝の露を含みて、その手に御座候。踵には小犬の躍りて、毛は乱れ、眼は可能性といふ単純なる喜びに輝き候。ここには過去も無く、期待の重荷も無く候。始まりの静けさと、その揺らめきのみに御座候。

旅人の世は、未だ印なき路と、最初の一歩とを語る物によりて形づくられ候。手なる薔薇は一夜にて開き、花弁は新しき紙の如く柔らかく候。古の物語にて、かかる花は春の初めに祭壇へ置かれ、その香は僧院の空気に漂ひ候き。僧らは亜麻を漉きたる紙へ写本を写し候き。積み束ねられたるその紙は、未だ一字も書かれず、筆を執る者のためらひたる最初の跡を待ち候。遠き国の旅人は宝を、手にて紡ぎたる亜麻布に包み候き。その布は嬰児をくるみ、死者を覆ふにも用ひられ候き。息の始まりと、その終りと、二つの儀は、頁の未だ繰られざる前の、一と息を示す布に囲まれ候。

崖の下の景色は霧に覆はれ、山の峰は朝霧に隠れ候。世の音を和らげ、感覚を鋭くする、かかる気に御座候。古の詩人は、かかる空模様を、無垢にて始まる旅の兆しと思ひ候き。日の出の前の気は冷たく、ほとんど音無く候。羊飼ひはかつて、群れの霧の塊へ消ゆるを見、仔羊が足場を得るか、見えざるところへ落つるかを、定め得ず候き。この空模様は一と息を誘ひ、渦巻く湿りの中に隠れたる形を、眼に探させ候。

北の海岸の町々にては、夜明けに麺麭を捏ねて焼き、中を裂けば湯気と温かさと現れ候。子に供ふる最初の一切れ、皮の指に従ふさまは、作られたる時刻の如く単純に清く候。市にては、日が屋根を越す前に魚を商ふ者の集まり、磨きて光る大理石の台にて鱈と大鮃とをさばき候。世界の厨にては、料理する者の磁器の鉢を取り候。その鉢は滑らかに冷たく、未だ起き出でざる家族のための、食事の始まりを混ぜ候。

旅は確かさによりて印さるるに非ず、前へ踏み出す意によりて印され候。旅人の一歩は、静かな街に降る初雪に響き候。街路と車とを静けさが覆ひ、最も硬き輪郭さへ和らげ候。子らは早く起き、裸足にて雪片の中へ走り、空より今しも到りたるものを口にて味はひ候。山の村にては、旅人は夜明け前に山道を登り始め、草と石とを覆ふ霜を靴にて踏み候。一歩ごとに約束にて、未だ生きられざる日を迎ふる道に御座候。

旅人の動きに従ふは、開きと迎へとを示す物を見いだすことに候。今日、貴殿は夜明けに窓を開き、世の未だ覚めざる前の清き気を吸ひ候へ。焼きたての麺麭より一切れを引き、温かさを手に留め候へ。亜麻の布を畳み、新しき物の休らふ場として卓へ置き候へ。外へ歩み、霧、雪、あるいは屋根の上の明るき空間へ、眼を失ひ候へ。

今日の色は白に御座候。
Lucky Color: White — #FFFFFF言葉を発する前の静けさより旅は始まり、無垢は道を開き候。

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